04【1103文字】二人だけのプール
先生。お待たせしました。アルバイト終わりました!
た?
はい。そうです。私はディディです。ふふっ。
ご自宅の件、災難でしたね。まさか水漏れするなんて。
しばらく教師寮にお住まいになるって聞きました。
お引っ越しはいつになるんですか?
そうです。
『掃除婦は何でも知ってるのよ』っておっしゃってました。
あ、もう引っ越されたんですか。
ふふ。じゃあ、今日からお互い寮生ですね。
でも、それじゃあまだお忙しいでしょうに。
お仕事押し付けられるなんて、ひどいですね。
うふふ。お手伝いします。
プール掃除。じゃなくて点検? でしたよね。
あ、あとはこれを運ぶだけなんですね。私にも下さい。
八時過ぎる前に終わらせちゃいましょう。夜ご飯、楽しみですね。
先生? 少し持ちすぎじゃありませんか?
そんなに一気に運ぶと……。
あ……!
先生!
大丈夫ですか?
すぐに誰か呼んできます。痛いところはありませんか?
本当ですか……? とにかく、早く上がりましょう。
風邪をひいてしまいます。
あ、そうでしたね。先生は、プール授業ありませんよね。
ちょっと安心しました。ふふ、確かに気持ちよさそうです。
わかります。
……なんだか、ちょっと先生が羨ましくなってきました。
じゃあ、秘密にしておきましょう。どんどん泳いじゃって下さい。
タオル持ってきますね。
はい?
えっ?
でも。
でも……。
……っ。
あはは。すごい! 思ったより水がはねちゃいました。
これで、二人揃ってびしょぬれですね。
ふふ! ごめんなさい! 加減ができなくて。
先生。さっきのご質問ですけど。
おっしゃる通りです。私、本当はプール嫌いじゃないです。
昔は好きだったんです。
水の中にいるのって、とても気持ちいいなって思います。
でも、ある時から怖くなった。
見られるのが怖くて、近寄れなくなった。
人の目を気にして、やりたい事がいつもできない。
そんな自分がずっと嫌でした。
でも。
入っちゃいました! ふふふ。おかしい。
こんな簡単な事だったんですね。
先生はすごいです。私に、いつも色んな事を教えてくれるんです。
あっ!
もう、先生、ひどい。
あっ⁉
もう! 怒りましたよ!
ふっ、ふふっ……ふふふふっ!
あの、先生。
私……。
あっ……! 先生! 見て! 花火です!
すごい……! ここから、こんなに綺麗に見られるんですね。
あの、ご存知でした?
そうですよね。私も知りませんでした!
はい。わかります。すごく『青春』って感じがします。
はい。秘密です。こんな素敵な事……誰かに言うはずありません。
ああ。いいんです。
何話そうとしてたか、忘れてしまうくらいの事だったので。
……先生。私今日の事、ずっと忘れません。
先生に会ってからずっと、夢の中にいるみたいです。
本当に……ありがとうございます。