【ご挨拶】
(野鳥SE)
本日は、遠路はるばる、百合野にようこそ、おこしやす。
私、十七代目の女将、百合野なごみ、申します。
「お客様に、ご滞在中おくつろぎいただけますよう、
精一杯努めさせていただきとうございます。どうぞ、よろしうお願い申し上げます」
それでは、ご宿泊いただきます、山百合の間にご案内させていただきます。
山百合の間ならではのサービスもございますので、どうぞ、ご堪能下さいませ。
(歩きSE)
最上階の山百合の間は、専用の階段のみで御利用いただける、まわりに他の客室がない、ただひとつの独立したお部屋どすんで、他のお客様を気にされる事のう、ごゆるりお過ごしいただけます。
古い所ですと、維新の志士などの偉人の方々。
それ以降ですと、教科書に著作が載っておられるような文人の方(かた)や、人間国宝の芸術家の方、誰もがお顔をご存じの政治家の先生。
かような方々にごひいきしていただいて来とうおす。
さて、その山百合の間がこちらでございます。
(框戸SE)
二間の和室とリビングにベッドルームの合計四部屋がございます。
こちらの山百合の間は通常のお部屋よりも広いサイズになっておりますので、ゆったりお過ごしいただける、思います。
よろしければ、ご休憩の際にはぜひ、こちらの広縁からの眺望をどうぞご覧になっとおくれやす。
眼下に広がる百合野を囲む指定名勝の眺めは…必見とお泊まりいただいた皆さまにおっしゃっていただいとおります。
今の季節なら、紅葉ですが、
このお部屋ほど、紅葉を楽しんでいただけますお部屋はあらしまへん。
どうぞ御覧になっとくれやす。
大小の奇岩が清流に連なる中、赤や黄色に染まった木々が彩る様は…圧巻どす。
(野鳥BGM)
あの美しい赤色は、
急激な夜の冷え込み、大気の乾燥による地中の水分の減少、強い直射日光。
これらの条件が揃うことにより、生まれるそうどす。
夏から秋とうつろい、訪れる急激な冷え込み。
そうして、お山の木々が一斉に紅葉するそうどす。
文学的にいえば、錦繍(きんしゅう)の山々ですやろうか。
錦と刺繍を施した織物のように美しい、という意味やそうです。
お客様専用の小舟もご用意させていただいとおります。船上から紅葉を楽しんでいただけますよって、ご希望の際はどうぞお気軽にお申し付けとくれやす。
(三種鳴き声)
そやけど、
今日の鳥さんは、殊の外よう鳴いたはりますなぁ。
お客様を歓迎したはるようどすなぁ…。
百舌鳥に、シジュウカラ…、コゲラ…。
ええ合唱やこと。
(合唱)
日々の喧噪を忘れて思わず聞き惚れてしまいます…。
女将がそんなことやあきまへんね(笑)。
お隣の和室には文机もありますよって、書き物の際にはどうぞご利用下さいまし。
それでは、失礼さしていただきます。どうぞ、ごゆるりと……
(框戸SE)