Track 2

02_導入

 失礼する。  トリックオアトリート。  お菓子がないと容赦しないぞ、がおー!  ……すまないが、反応がないのはやめてくれないか。  私だって似合わない真似をしているのは自覚している。  ああこれか、マジコスショップだったかな。  このハロウィンの期間だけ出店する女子に人気の噂のお店で買ったんだ。  う、うむ、ちょっと露出が高いがスタイルがいい私には似合うと言われてな。  それで、今日は人狼……ワーウルフの衣装で来てみたんだ。  そうか、似合ってるならよかった。  い、いやなに、この街ではハロウィンは日頃の感謝を込めておめかししていく、バレンタインデーのようなものだと聞いてな。  そ、それで……君にはお世話になってるから、先輩として、ちょっときてみたんだが、迷惑だったろうか。  そうか、よかった、うむ、喜ばれると来たかいがあったというものだ。  私の実家が、SPや武道を生業(なりわい)としているのや、たまに魑魅魍魎の類いのお祓いをしている、武家屋敷? のようなものだというのは話をしたことはあったよな。  何でもこのハロウィンの間に、お菓子をもらえないと本当に人狼になってしまうらしくてな。それで心配していたのだが、お菓子をもらそうだから、安心したよ。  では、お菓子もらえるかな?  は、な、ないって……だ、誰も来ないと思ってたって。  そ、それでは……ひゃ、ひゃっ!? う、うぅ、まさか……本物なのかこれ。  だ、大丈夫だ、なんでもない、ちょっと腰が抜けただけで。  大丈夫そうに見えないから、とりあえず、背負って部屋に行くって?  寝てた方がいいと思うって、あ、ありがたいが、それはちょっと。  わっ……。  お、重くないか? 私は女性にしては170㎝近くあるからだいぶ重いと思うが。  そ、そうか、やっぱり男の子だな、逞しい……って、うっ、またよからぬ思いが。  はぁ、な、なんでもない。  いや、何、ワーウルフになったら、その……いや、気のせいだ、ちょっとびっくりしているだけだから、すぐにおさまると思う。ありがとう。部屋についたらちょっと、休ませて貰うな。やっぱり、私は君のことが、いや、なんでもない。