01_ほれほれ、妾にお主の願い事、申してみよ?(12:37)
「おっ、湯浴みから戻ったようじゃな。重畳重畳」
「むむっ、驚いたような顔をしておるの。正に狐に摘ままれた表情、というやつじゃな。ふははっ」
「……ふむ、これはきちんと事情を説明せねばならぬというやつか。致し方ない」
「直接脳内に語り掛ければ便良しなのじゃが……妾はそのような妖術、身に着けておらぬのでな……」
「話せば長くなってしまうことなのじゃが……お主、昼間神社でお参りをしたであろう? 賽銭を放って鈴をガラガラと鳴らし、お参りとお願いを」
「それがなんと……!! 丁度お主が1万人目となっての。それで記念に願いを叶えて進ぜようと妾が直々に馳せ参じたというわけなのである」
「……こ、建立年数の割りに参拝客が少ないのは隠れた名所であるからじゃ。異論は認めぬぞっ」
「ほ、ほれ、見よ!! この耳に尻尾、立派な狐具合であろう? むふふっ、何を隠そう妾はお稲荷様じゃからのぅ」
「……むっ、まだ狐に摘ままれたような表情をしておるな……。妾がお主の頬を摘まんで「ほれほれ、本当に狐に摘ままれておるぞー」とか場を和ませたほうが良いのじゃろうか……」
「……」
「こほん。というわけで、じゃ。妾がお主の願いを聞き届けにやってきたわけであるが……女子に寝かし付けられたいとは……随分と酔狂じゃの、お主は……」
「まあ、妾も神社の裏に放置してあった書物で知ってはおるが……お主はアレじゃろう。百合というやつなのじゃな」
「うむうむ、分かっておる分かっておる。妾も女性の気があるのでわかっておる。女子は良い。とても良い。やわこくて良い匂いがするのである」
「そうさな……妾は女子が二人で仲良くしているのを見ているととてもほんわかとした心地になってくるのじゃが……お主も分かってくれるだろうか?」
「うむっ!! 重畳重畳!! やはりお主も百合女子というやつであるのじゃな、ふははっ♪」
「では……そうさな……妾はやはり、『仲睦まじい友人だと思っていたが、相手からの恋の相談を切欠に己の気持ちが恋い慕うものだと気付く』というような百合が好きじゃ。おお、しかし初めから女性同士の色欲全開のものも結構であるな!! 幼馴染や同級生というのも良いが、妾は上司と部下というのも――」
「……はっ!! す、すまぬすまぬ。ついつい百合語りをしてしまいそうになってしまったのじゃ……。こう、趣味の合う女子とこうして話すことなど今までなかったのでな……百合とおく(トーク)というものをしてしまいそうになるのも仕方のないことなのじゃ……」
「百合とおくも捨て難い……とてもしたいところであるが!! 本日はお主の願いを叶えに来たのであるからな、ふははっ」
「はてさて、百合とおくはお主のお願いを聞き届けた後にたーっぷりとさせて頂くとして、だな!! まずはお主のお願いを聞き届けようではないか」
「先に申したが……「女子に寝かし付けられたい」がお主の願いであるが……ぬふふっ……分かっておる分かっておる。妾は分かっておるのじゃ。「寝かし付けられたい」というのは「女子と目合ひたい」というのを恥ずかし気に語っておるのであろう」
「ふははっ……何とも心憎い女子よのぅ、お主は。そこまでお願いされてしまっては……妾も応えねばなるまい」
「……ついに妾も女子と身体を交える時が来てしまったか……ふ、ふふふっ……書物を読み漁りしかと蓄えた知識を……思う存分……」
「……し、しかし……な、何やらとみに気恥ずかしくなってきてしまったのじゃ……こ、ここは妾が「受け」となりエスコートをして貰うほうが有難い気が……」
「……ぐぬぬっ……し、しかし……どう考えても妾のほうが年上であるし……それにお願いをされているというのに生娘のように身を任せてしまうことになるのは……神としての威厳やら尊厳が……」
「……いや、待つのじゃ。年上の女子を篭絡したいとお願いをされるかもしれぬではないか。それならば……妾が受けとなって身を任せることに些かの問題もないではないか……ふ、ふははっ……」
「ふむ、というわけでじゃな、お主のお願いを改めて聴かせて貰うこととするのじゃが……先に言っておくが……遠慮は要らぬぞ? 思うがままに言うてみよ。恥ずかしがることはないのじゃ」
「ほれほれ、お願いをしてみよ。妾がその願い、しかと聞き届け叶えて進ぜようではないかー」
『遠慮せずに……ほれほれ、言うてみよ? お主のお願い、妾に言うてみー? 遠慮せずにーほれほれー……言うのじゃー』
「……」
「……う、うむうむ……分かっておる分かっておる、「寝かし付けて欲しい」というのは気恥ずかしさを隠すために言っておるのじゃろう? 妾、とても気の利く神様なのでそこらへん、よーく察せられるのじゃ」
「なので、気恥ずかしいのは分かっておるが……言うてみい? 妾もしかと言われたほうが胸がキュンキュンして気持ちが入るというものであるからのぅ、ふははっ」
「ほれほれほれー? お主の本当のお願い、妾のこの可愛らしい狐耳に聴かせてみるのじゃ。なーに、他の女子には絶対に他言せぬ。妾とお主の間だけの、女子同士の秘密じゃからのぅ、ふははっ」
「……」
「……ふむふむふむーっ……じゃから……「寝かし付け」などと遠回しな言い方ではなく……」
「…………」
「……も、もしやお主……本気で寝かし付けをして貰うのを所望しておるのじゃろうか……?」
「……は、恥ずかしく思い遠回しに言っていたわけではなく、純粋に女子に寝かし付けられたいと……」
「……」
「……ふ、ふははっ、わかっておるわかっておる! 妾、よーくわかっておる!! 妾は何でもお見通しであるからな! お主が心より寝かし付けを所望しておったの、妾とーってもよくわかっておったのじゃ!」
「うむうむ、お主は女子に寝かし付けをされたい、間違いないのじゃ! ……間違い……無いのじゃな? らすとちゃんすというやつであるぞ? 己に素直になるのは今であるぞ? もう一度……願い事、言うてみい?」
「……」
「……ふ、ふははっ、い、今のは確認である。何事も確認は大事であろう。うむうむ、確認大事、大事じゃ」
「では、早速お主の願い、叶えてしんぜようではないか」
「……」
「……良いのじゃな? 妾のような大人の女子に寝かし付けられて……満足なのじゃな? 寝かし付けられて満足なのじゃな!?」
「……」
「……よ、よし、それでは……」
「……」
「……本当に寝かし付けだとは思っていなかった故……ほんの少しばかり待たれよ。はてさて……寝かし付けと言えば……そうさな……」