■トラック①『初めまして...若旦那様』
は、じ、め、ま、し、て…
お、お世話に…んくっ、ふぅ…大丈夫かな?
ちゃんと言えてる…と、思うけど…
あー。初め、まして…
あっ…!
んんっ、あー、あの…
貴方が、わか…若旦那…様、ですか…?
…でも、間違っていたら…すみません。
若旦那様で、あって…いますか?
では、改めて…こほんっ
初めまして
私は…仲居、見習いとして、ひと月前からここに…こちらで働く事になりました。
住み込みとして、こちらの旅館でお世話になっています…
その…耳と言葉が、少し不自由、で…
今も…ええと、言葉が上手く、やっぱり下手でしょうか?
ちょっとだけ、たどたどしい、かなと…思います。
でも、旅館のお仕事は、ちゃんと、でき…ます。
お客様には、直接会わないように…
見えるところに出て…迷惑かけて、しまわない、ように
裏方の、お仕事…掃除や洗濯、雑用だけ…します。
そういうのは、一通り…教えてもらいました。
それでいいと、女将さんからも…りょ、了解を…もらい、ました。
だから…問題は、無いと思…います。
若旦那様にも…迷惑は、掛けませんので…
それだけ…です。
他にはありません。
時間を、使わせて…申し訳…ございませんでした。
要件はそれだけです、…他に伝えることは、ありません…
それでは…
ん…?
口が…動いて…? 若…旦那様?
何か言い…んと、違う…
こういう時は…。
何か、お、おっしゃり、ましたか?
違い…ました?
…それなら、いいです
…どうしました? 顔、近すぎました、か?
すみません…私、耳が、あまり聞こえなくて
大きな音なら、ぼんやり、解る…くらい、なので。
私に話しかける時は、仕事があるときだけで…お願い、します。
無理に、言葉を掛けてもらう、必要も…無いです…
お話、上手くできないの…今も迷惑、だと思いますから…
…それでは、これで
…失礼、します…