Track 5

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5.バケノカワノシタデマツ・後

ふぅ......。早く戻らなきゃ......先輩を待たせてしまっている。ふふ。先輩のことだ。きっと寂しくて人肌恋しくて、両手を合わせてお祈りしてるに違いない。......ああ。過ぎてしまえば、何を悩んでたんだろう、って感じだな。 まさか、泣きつかれるとは思ってなかったけど。でも......名前で呼んでくれた。先輩のように。父のように。......いい、景色だな。あれ?なんだ。なんかこれ......見覚えが。......はッ......!?これは......この......景色......は......。......たまに、夢を見る。遠くに......山、近くに田園、ひぐらしが鳴いてる。世界が赤く染まってる。私はひとり。ただひとり。何かを待ってるわけではない。って、いつかはそう思ってた。でも私は......彼を、待ってる。しばらくすると、彼が来る。笑って、小走りで、私のもとへ。私も笑ってる。理由はきっと、「好き」だから。ううん、それだけじゃない。それだけじゃないんだ。きっと、......私は、家族を手に入れられたから。だから、こんなに......笑ってしまうのだろう。......誰かが私を見つめてる。その視線は、きっと、きっと......。ああ、そうだったのか......。お母さん......。......!誰だ。誰かが近づいてきてる。ああ、......先輩。先輩だ。やっぱり......来てくれたんだ。そうか。あの夢の中で、誰かを待っていたのは......私じゃなくて......。......やあ、先輩。大変お待たせしました。フフッ。どうしたんですか。そんなに慌てて......。ん、私はね、......いぇ~い、って感じです。両親と......一緒に暮らすことになりました。えへへ。ふわッ!?ちょ、ちょっと先輩、なにしてんですか、こんなところで抱きしめるなんて、......あ、ああ、そっか、私、お願いしましたもんね。でもあの、今、お母さんがこっちを見て......、......いや、何でもない。ふふ。私のこと、心配でした?大丈夫ですって。先輩は心配性なんだから。......ねえ、離さないで。そのまま聞いて。私、お前と共に見つけたい場所がある、って、話したことあるじゃないですか。......見つけました。たった今。この瞬間。この場所、この時間。ずーっと、どこにあるのか分からなかった。何度も何度も夢に見て。先輩と出会ってから、その夢の中に、お前も出てきた。でもその場所は、どこなのか分からなかった。......ここです。ここはきっと、終わりで、始まりで、先輩と私と、全ての......。ああ......こうなることは、必然だったのかな。必然って、自分の選んだ道を歩いていった結果のことを言うのかな。それとも、最初から決まっていた約束事......なのかな。難しいことは、私には分からない。私には、色んなものが見えてしまうから。それが真実なのか嘘なのかも、見ている私にだって分からないんだ。でもね、ひとつだけね、分かるの。今ここに......お前がいてくれることが、私、......嬉しいよ。私は一人じゃなかった。一人じゃない。どうやら、愛する恋人も、愛する家族もいる......恵まれた存在だったみたい。いつの間にか私、とっても幸せになってたね。......、ありがとう。......大好き......。■先輩。今度はさ、私のウチへ遊びにきてほしいな。父と、母と、その他大勢と私でお迎えいたします。......いやいや、怖がらなくて大丈夫ですよ。 家守家は、先輩というひとを歓迎しています。私が今ここにいられるのは......今の全てが、お前のおかげなのだから。あ......そうだ。結婚しませんか?......おわ、びっくりした。まったく、いつもいつもオーバーリアクションだなお前は。いや、冗談じゃないですよ?しませんか?結婚。えんげーじ。先輩だったら、父も母も二つ返事してくれると思う。いやですか?......ほんと?えへ、よかった。ふふふふ。嬉しい。嬉しいよ。めちゃくちゃ嬉しい。すっごく嬉しい。ああでも、先輩のご両親と親睦を深めなきゃね。お母さまはお優しいひとだったけど、お父さまはどうなのかしら。......へえ、似てるんだ?先輩に?じゃあきっと大丈夫。あでも、先輩に似てるなら、私、お父さまのほう好きになっちゃうかもね。......ククッ、それこそ冗談ですって。誰に似ていようが、私が好きなのは先輩ただひとり。ひとり。ひとりです。そうそう、前々から言おうと思ってたことがあって。なんか、不思議じゃありませんか。先輩はそこにいて、私はここにいますが、お互いがお互いを、「好き」、なんですよ。好きとか、会いたいとか、愛してるとか、全部が目に見えない気持ちなのにさ。ひとも、......妖もね、化けの皮の下に気持ちを隠してるみたい。「好き」になった者同士は、口っていう穴から、気持ちを言葉に変換して吐き出して。その言葉に......二人とも、胸が震えて熱くなる。何が言いたいか。何が言いたいんだろうね、私。先輩に好きって言うことも、言われることも、やっぱり、目には見えない感情なんだけど。身体も、頭も、全部全部、......幸せ。そんな気持ちになれるひとが、今、目の前にいることが......不思議だな、って。ふふふ♪あっ、ところで、もし嫁入りしちゃったらさ、私は家守依知じゃなくなっちゃうね。家守依知の終わり、第二の依知の始まり。わー、なんかそれ、いいな。素敵だな。胸がキュンキュンしちゃうな。その終わりと始まりを先輩に見届けてもらえるのも、嬉しいものだね。あははは。......そろそろ、夜だな。この夜の向こう側には、一体何があるんだろう。ただの帰り道のはずなのに。暗い。何も見えない。怖いね。夜は怖い。何が潜んでいるのかも分からない。......あは。先輩、こういう時はかっこいいんだから。そうだね。お前の手のぬくもり......、ひとりじゃないって思える。夜の向こうを恐れるんじゃなくて、楽しみにしていこうか。どんなことが起きても、先輩と一緒だったら、私、ほら。えへっ♪笑っていられるよ。行こう。帰ろう。ここから先は、全部......未来。あなたと、依知の、未来です。(終

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