6.最後の壁
どーもどーも。ヤビツでーす。はあッ。今日もかったるかったなぁ。怠くて愚痴る気にもならないや。っていうか、やっぱりあんまり溜まってないし。昨日の話の続きでもするか。何だかんだ、お前なら話が合うからな。クラスの馬鹿どもとは、話題合わせるの大変なんだよ。めんどくさい......。はーあ。んぁ?んー、学校にいる間は一秒だって気が抜けないんだよね。どいつもこいつも、あいつもそいつも、一枚皮被って話してる感じ。何の価値もない会話ばっかりで、本音なんてどこにもありゃしない。まー、そんなのはいいとして――......え......うん?どしたの、改まって。何の話?......へ。えっ?えっ。な、何だよ急に。どういう意味?ぼっち......なのは、お前だろ。え、ちょっと待って。何が言いたいの、それ。まーたおかしな事言い出しやがってさ。今度は何の冗談だ?......は......いやいやいや、ぼっちはお前だけだって。何だよマジで。私は友達もたくさんいて、教師からも好かれてて、成績も良くて......。......へ......?......あ、ぇ、え。おい。そこで止めてもらえる?マジ。あの、ほんとに。――おまッ......おい、お前、さ、なに、私を......怒らせたいの?ねえ。......ねえ!............。......ああ、そう、そっか、そうなんだ......。......、......ねぇ君ぃ。あのね、超えちゃいけないラインっての、分かる?君さ、それってさ、つまり君が言いたいのはさ、あたしが、友達たくさんで皆に愛されるヤビツ藍ちゃんが、実は、その気持ちを誰からも理解されてなくて、される気もなくて、心理的に精神的にぼっちで、寂しい奴だって事だよね?ね?あのさ。どーゆーつもりでそんな話をしたの?あたしを突き放したいのかな?ね?あは。あはははははは。あははは。ウケる~。マジウケるんですけど~。あははははははは......。あー、あー、あー、あー、これ、ダメだ。君、得意だよねぇ~。あたしの心の中に手ぇ突っ込んでくるのさぁ~。あーーーー......、ひッッッさびさに、君の事殺したいと思っちゃった。......君はぁ、誰から見てもぼっちだけど。あたしはそんな事ないの。あたしはぼっちなんかじゃない。誰がどこからどう見たって違う!分かった気になって、良い気になってた?うん。あたしも良い気になってたよ。初めての理解者だもん。でもそれは、一線置いた距離だったから心地よかったの。お互い辛いところあって、理解し合って、気分の良い距離感だったの。つまり、まだ壁があったんだ。見えないくらいの壁だけど。あのね。あたしのパーソナルスペースはね、そりゃあもう掻き消えるくらい狭いけど。君、あたしの一番触ってほしくないところに、壁に、手、伸ばしてきたから。たぶん、いやきっと、君の思ってるよりずっと、......やばいよ?......。ねー。もう二度と話しかけないでほしいなぁ♪お願いぃ♪今までの話、ぜーんぶなかった事にして?サンドバックも世間話も理解も共感もぜーんぶ、白紙にしよ?で、これきりもうあたしに関わらないで?この通話も、もう切ろ?あ、でもぉ、あたしから切るのなんて逃げるみたいでヤだからさぁ。君、通話、切ってくれない?ね?切って?ほら、切って。切って。早く。切って。切って。切ってよ。切って。
......、......それが君の、最後の言葉?そう。......好き、か。ああ。最後の最後の最後の最後で、君ってば、平凡になっちゃったね。......少しでも賢さかしいと思ったあたしが馬鹿だった。ああそっか、あたしも馬鹿だったんだ。今さら気づくなんて、そんなの、なんてどうしようもない話だろう。......だから、もう、切って。....................................。......切れ!切れよッ!ッ......。オォマァエェ......!ああそうだよッ。ぜーんぶお前の言う通り。最後だから、洗いざらい話してやる。私はぼっちだ。この世界で誰よりもぼっちだ!大勢の友達に囲まれようが、褒められようが、一瞬だって本当の私を見せた事がなかった。それでよかった。失望が怖くて、変わるのが怖くて、仮面の下を見せるのが恐ろしくてッ、でも、それがひとだろ!?生きてりゃ誰でもそうなるだろ!?たぶん、誰も彼も無自覚で、私は頭が良いから、それに気づいてたんだ。孤独、ずっと孤独。孤独だと思ってた。お前と出会うまではッ......!!......ひぐッ......ぐすッ......お前、が......私の、扉......こじ開けたんだぞ......。きっと、嬉しかった......信じようって、思ってた......、でも、でも、お前、が、お前から、それだけは......言われたくなかった!うぅッ......ううぅうううッ!ぁああああッ......。死ねッ、死ねクズッ!さんざひとの心引っ掻き回してッ、結局これが結末かッ!?最悪だよ、最低だよッ、なんで、なんでさ、言っちゃいけない言葉とか、伝えちゃまずい事実とか、なんでそういう判断ができないのッ!?ねえッ!も、私......どうすりゃいいんだッ......。分かんない、分かんないよ......。......ッ......、......お前は、いつもいつもいつもいつも......、そんな、馬鹿げた事、ほざいて、最初から、そうで......、今も......くそッ......!最後の壁を、超えなきゃいけない。そんなお前の......お前の下らない正義心みたいな、馬鹿みたいな、お前の勝手で、お前の、意志......が......、......ッ......。なぁ、おい。おいッ......。お前が......通話切らなきゃ......一生切れないよ......。うッ......ひぅッ......ぁあ......ッ......。ぅ、ぅうッ......。ぅううぁああああッ。いやぁッ......!やだぁッもうお話できないのやだぁッ、いて、ずっといて、私のそばにいてッ。もうダメだよ私、お前がいなきゃ、もうお前しかいないんだよぉ。頭、おかしいんだ、随分前から、おかしくなっちまったんだッ。お願いッ、お願いしますッ。切らないでッ捨てないでッ。頼って、頼らせてッ、私、私がんばるからッ......!恋人になる結婚だってするッ。こんな言葉がダメなら変えるッ。料理とか洗濯とか服装とかッ、身体だってッ!お前が望むなら望む女になるからッ。だからッ。......ぁ............あ、......あ......ぁあああ。......好き、好きィッ......好きッ......私も、大好きッ......。好き、好き、好き、好きぃいいいいッ......。好きッ好きッ好きッ愛してますッ愛させてくださいッ大好きなんですッ、この通話してる時間が、お前とお話してる時間が、その全てが何よりのッ、幸せなのォッ!!だからッ――......――......はは、ははは。あははは......。............うん、............ありがとう。......喜ぶところだろぉ、今のさぁ......。そんな真剣に返事するなよぉ。......ありがとう。こんなありがとうも、たぶん、きっと、初めてだよ......。
ごめッごめん......ね、......なんか、昂っちゃって......、......私、も、いつかそれと向き合わなきゃなって、心のどこかで思ってた......きっと。でも、変化は......怖いんだよ。私、は、周りがいくら馬鹿で、無能で、私の精神蝕むような奴らばっかりでも、今まで築いてきたものが、壊れるのが、怖い......。......きっと、ひとりだったら、私も壊れてた。お前が......お前となら、乗り越えられるかも......ね。ん......、......今日も、に、なっちゃうけど、このまま......声、聴かせて。わがままばっかりだなぁ、私......駄々っ子だったんだなぁ......。......ん......、......お前の声、落ち着くよ。安心する。だから、ずっと、こうしてて......。