5.黒崎愛
....ふぅ。......あ、寝顔かわいい......。ぐっすりだね、よかった。あ、どうしよう、まだ眠くならないや......。ん~......、......わあ、もうこんな時間だったんだ。よいしょ......。ふふ、広縁(ひろえん)って落ち着くなぁ。......さっきまでこのひとったら、あんなにはしゃいで、景色すごいよ、って、子どもみたいだったな......うふふ。おやすみなさい。そんな一言がこうして言えるの、幸せだな......。
......あるところに、地味でぼっちなクラスメイトがいました。友人もいない。作る気もない。趣味は読書で、取り柄も特技もない。言葉どころか、目線ひとつ交わした事のない間柄。沈黙を破った一言は、彼女の人生をがらりと変えてしまうものでした。頭の中で思う事。それを口に出す事。どちらも、ひとという生き物なら、皆何気なくやっているけれど、口に出す方は、とてもとても......勇気が要る事だと知りました。そして、幸せを知りました。しかし。クラスメイトは、やさしさに甘え始めて、それなしでは生きてゆけず、幸せをはき違えている感覚になる日が増え......悩みが芽生えて。でも、ああ、もらった勇気は、いつの間にやら自分のものになっていたのでしょうか。彼女は、歩幅を共にする決意を。それを口に出す勇気を見せました。一歩先には、互いの笑顔が咲いて、たどたどしい指先が触れ合って。不器用に温め合いました。本当の幸せを手探りするように......。それから、どれだけの月日が流れたでしょう。彼女は、幸せの先にある幸せと共に在りました。そして毎日毎日、考えるのです。想いを重ねて、言葉を連ねて、何万文字という気持ちを伝えたとしても、この一言には到底かなわないのだと。ありがとう。ありがとう。今まで。そして、これからも。ありがとう。(終