06
君も、夏と私の違い、わかってくれたでしょ?
それに、もう…ほら、体を起こして。
んしょっと…窓の外、見てみて。
君が望んだ色に、世界が溶けていくわ。
でも、これはね「綺麗な夕焼け」でもあるの。
ひとつの色だって、人によって、違うものに見えるわ。
ほら、絵の具に、ヴィリジアンって色あるでしょ?
君は小さな頃、あの色を何に使った?
森を塗るのに使ったの?
私はね、海に使ったわ。
ね、そういうものなの。
同じ色だってかまわない。違っていてもかまわない、どこにいても、君が君ならね。
ん、明日も晴れる…今日の夕焼けには、そういう約束が出来るわ。
さ、君も明日へ行かなくっちゃ。
夜が更けて、まぁるい月が笑い、太陽が連れてくる明日へね。
さ、立って。
出口へ向いて。
私に背を向けて…はいっ。
踏み出せたわね。
押したから?
違うわ…どんなに背中を押されても、意志がない足は、前へなんて出て行かない。
それは、その一歩は、紛れもなく、君が踏み出した、君の一歩よ。
私に出来るのは…ここから君を送ることだけ。
このご耳愛部から出て行ったら、そこは君の世界だから。
けれど、君を見てる人は、どこにだっている。
独りだと思ってるその背中を、横顔を、見ててくれる人がいるから。
うんっ、大丈夫よ!
…でも、疲れたら、またここへ来て。
私はここにいる、ここで待ってる。
私、紬愛莉が、またご自愛してあげるわ。
…いってらっしゃい!
(了)