Track 2

scenario2

シナリオ:黒川雅美 【キャラ紹介】 若い女の子が屍術であなたを蘇生させようとしている所です きっと上手くいかないでしょう 【シナリオ】 とても死人には見えない、安らかな寝顔だ もう少し、眠っていてくれ 私が必ず、この私「大呪術師ヴェラ」様が絶対にお前さんを目覚めさせてみせるからな だからそれまでの間、せめて安らかな夢を見ていてくれ ふふっ……とはいっても、居心地の良過ぎる夢は見ないでくれよ 折角お前さんの魂を呼び戻せても、「死者の国から帰りたくなかった」などと恨み言を呟かれては困るからな いや……それとも、たっぷりと気楽な夢を見ていてもらおうか その方が、後のお仕置が心に染みるだろうから お仕置というのはもちろん、勝手に死んだお前さんへの罰の事だよ 「呪術師」の恐ろしさを骨の髄まで味合わせてやろう ……不服か? 当然であろう? お前さんは私という「ご主人様」の許可も得ずに、勝手に身勝手な行動をして死んでしまったという、許しがたい「助手」なのだよ あの時だってお前さんは私の命令に従わなくてはいけなかったんだ…… なぜ私を庇ったりなんてしたんだ 私は不死なんだぞ、そんな私を庇って死ぬとは……まったくバカな助手を持ったご主人様は大変だよ 良かったなぁお前さんのご主人様が「孤高の呪術師」で 「魂の蘇生」は禁術中の禁術、私のような優秀で放埓で不道徳な呪術師にしか扱えない物だからね ……ふふっ、そういえば以前一度、お前さんは私の呪術師の腕を疑ってくれたな 「孤高を気取ってるのは、友達がいないからでは?」などと失礼極まりない言動で私をからかってくれたな ふっふふふ、期待していたまえ、私がどこの派閥にも所属しないのはその知性と美貌ゆえだという事を、お前さんの魂に嫌という程教えこんでやろう 思えば生前のお前さんは、私に対して酷く失礼な助手であったな 他にも随分と失礼な物言いをしてくれたな、全部覚えているぞ 初対面の時だっていきなり私を小娘扱いしてくれたな、なにが「お母さんは居るかい?」だ! 私の助手を志願したときも、「僕を雇わないと困るのはお前さんの方では?」などと下らぬ挑発をしてくれ さらに私が術に失敗するたびに「失敗は成功の元」だのと、お前さんは素人の分際に過ぎないクセに随分わかったような口調で説教してくれたな まったくつくづく無能な助手だったよお前さんは ……まぁ料理が上手かった点だけは、評価してあげなくも無いか だがしかし、その所為で私の無駄に舌が肥えてしまってな 以前の乾燥肉だけの生活では些かストレスを感じるようになってしまってたよ だからな、最近料理をするようになったのだよ ふふっ、信じられないか? 私が料理してる姿なんて想像もできないだろう? これでなかなか、結構上達してきたのだぞ まぁ、私は天才だからな 呪術師一族の中でも名門中の名門、「シンクレア家」の中でも優秀すぎて異端児扱いされた私 そんな優秀、いや超優秀な私にとっては「料理」だなんて簡単に極められるのだよ 無事お前さんを蘇生できた暁には、私がハンバーガーとやらを作ってやろう 例えお前さんの一番得意な料理であっても、私の方がはるかにおいしくつくれるという絶望を味合わせてやる 今はまだ……あまり上手く作れないがな もうちょっとで「食べられる」程度の物は作れそうなのだ あとホントにちょっとでな だからまぁ…… ……そうだ、文句といえば花壇だ 貴様、私があれほど「止せ」と命じていたにも関わらず裏庭の花壇に花を植えたな あれ程よせといったのに……立派な花畑にしてくれて どうしてくれるんだ、私は園芸なんてわからないんだぞ いや、もちろん……私は天才なのだから、園芸だって学ぼうと思えば直ぐにマスターできる しかしだ、もう、もう花が枯れ始めてるのだ そのだな、いや、がんばって学んではいるのだが、何をすればいいのか…… 私は、苦手なんだこういうのは なんでもできるわけではないんだ 特にその……あの手のか弱い生き物の相手は無理だ 私には枯らすことしか…… なぜ花を植えたんだ 嫌味か……お前さんも私をバカに……いや、なんでもない ……話を変えよう お前さんをどうやって蘇生させるかの、についてでも語ろうか 私が今回用いる手法は3912年ウィーラが開発した霊魂フラックスの選択操作法を、 この霊子チャネルが編みこまれたされた改良物性皮膜を使って行う 改良物性皮膜による魂の選別性能は3901年のベアリング氏の論文で実証済みだからな だがベアリング氏と違って私は屍工学を修めていない、なので代わりに私の得意な生体再構成分野の技術を応用して皮膜を作ってみた次第だ この改良物性皮膜は一応ネコの魂はほぼ100パーセント、一切のコンタミネーションなく隔離できることが実証ずみなのだが いかんせん人間の魂は今だ32パーセントのコンタミネー……ふふっ まぁ、この手の話は呪術師としての素養を持たないお前さんに話しても無駄か 呪術学校の学生達なら泣いて喜ぶだろう非常に有意義な私の講義も、お前さんのような低脳な助手にはブタに真珠か だが、それほど気に病まなくても良い 例え呪術学校の教授であろうとも、私のこの完璧で美しい理論を一パーセントだって理解できてないからな 無学のお前さんに話すのも、私からすれば稚児レベルの知識の教授に語るのも、こうして死体相手に一人嘯くのも……どれも等しく無意味だ 私が真の意味で孤独を感じなかったことは、いままでの生涯で一度だってないのだよ そうだ、一度だってない だからお前さんはそこで、なに一つ気に病むことなく死んでいて良いのだぞ 私はお前如きが居なくなった程度では、うろたえたりもしないし、寂しがったりもしないのだ 本当だぞ? こうして毎日話しかけてるのだって、別にただの暇つぶしだ まぁでも……この屋敷が汚くなるのだけは、少し気にならんでもないな さっさと生き返らせて、掃除掃除掃除の日々を楽しませてやろうかな もちろん私は絶対に掃除なんてしないぞ、そんな召使い染みた真似、私には似合わないからな ためしにやってみたが、料理と違って全く楽しくなかった あんなつまらない事、もう二度と、一秒だってやりたくない ……生前、お前はなんであんな作業を楽しそうに日々やっていたのだ? 確かに私は「やれ」と命令していたし、お前さんは私の助手……いや、奴隷なのだから、当然といえば当然なのだが…… なにか、こう、私のやり方が間違っているだけで、実は掃除を楽しくやる方法があるのか? 蘇生が成功した暁には、是非教えてもらいたいものだな ……教わるといえば、そうだ お前さん、結局私にお前の国の文字を教えてくれなかったな いつもいつも「今日は忙しい」やら「ちょっと今は思い出せない」やらふざけた理由でのらりくらりかわしてよって お陰で貴様の日記が読めないだろ その所為で私はかなり無駄な苦労をすることになったのだからな 例えば……裏の花壇になかなか気づけなかった事だ もっと早く気づけていれば、もうちょっと枯らす事無く……あの花壇の、一番美しい姿を見れたのに…… それだけじゃない 私は、お前さんの事を何も知らないのだ ずっと知っている気になっていた、でもお前さんが死んでやっと気づいたんだ お前さんは何処から来たのだ? 家族は居るのか? 友達は? 何一つ、私に話してくれなかったな ……別に、それが、そんな事が不満なわけではないぞ! 勘違いするなよ! 私はお前さんのような低俗な人間のプライバシーなんぞに興味なんてこれっぽっちも無いし、別に隠し事をされてたからって傷つくような繊細な人間でもない! ただ……ただその、なんだ? その…… そう! 蘇生だ、蘇生する上で、そういう情報は重要なのだ! だからその……いろいろ、話しておいて欲しかったのだ…… まぁ別にお前さんの魂はそれほど拡散してはいないからね そんな情報が無くても、天才の私なら、大丈夫なのだよ ちょっと時間はかかるかも知れないが……直せないものでもないからね 上手くいけばかかっても百年程度で、お前さんを蘇生できるはずだ ん、今「百年!? 長過ぎだよ!?」と思っただろ? 悪く思わないでくれよ、これでも全速力なのだ 「魂」は呪術の中でも最も複雑なジャンルだし、その中でも「蘇生」は格段に難解な術なんだ だからその……勉強しなくちゃいけないんだ…… 今の私には、まだ扱えないんだ し、しかたないだろう、人には得意不得意があるんだ 複雑な術を扱うのは、あまり得意じゃないんだ ……なにやってるんだ私は はたから見れば滑稽だな 死人相手に独り言をブツブツと バカじゃないか、まるで ……いいや、本当にバカなのは、未だに見栄を張ってることか 「孤高の呪術師」「名家シンクレアの異端児」そんな偽りの仮面を、お前さんが死んだ今でも剥がせないでいることか ……全部嘘なんだ 私は、お前さんに語り聞かせていたほど優秀な呪術師ではないんだ シンクレア家の異端児? ……ふふっ、我ながら稚拙な嘘をついたものだ 本当は、劣等生だったのだ 偉大なるシンクレア一族の長女だというのに、呪術に何一つ才能をもっていなかった…… 小動物はもちろん、植物の魂さえもろくに扱うことのできない、凡人以下の娘だった そして次女は、アイツはそんな私よりも遥かに優秀だった 次女の方が、私よりも何倍もシンクレア家の長女にふさわしかった だから、私は……皆にとって邪魔な存在だった 母も父も、下の妹達も、誰も私を次女から守ろうとはしてくれなかった…… 逃げるしかなかった 逃げて、ここで、一人生きて行くしか…… ……不死身だなんてのも嘘だ、私は普通に死ぬ そうだよ、あの時お前さんが命を賭して私を庇ってくれなかったら、今頃そこに横たわっているのはお前さんではなく私だったのだ お前さん……全部気づいていたのか? だから……私を庇ったのか? 私の、全部を知って…… いつも泣いてばかりで、母からはなんの才能も受け継がなくって、一族からも追い払われた、そんな私の正体を? 私が、無力で、何もできない、ただの見栄っ張りな小娘だという事を、知っていたのか…… でも……でも、違うんだ、今回だけは違うんだ 今回はやりとげてみせるから。 今度ばかりは、必ず 必ずお前さんを蘇生させてみせる 私一人で、絶対に…… (鼻をすする音) ……ダメだな、私は本当に弱い人間だ 私がこんな風に泣き言ばかり言ってると、お前さんは優しく叱責してくれたね プライドばかり高かった私は、そんなお前さんの優しさを一度だって素直に受け取らなかった とても後悔しているんだよ、その事を お前さんに伝えたいんだ、お前さんに謝りたいんだ、お前さんに…… ……私には、お前さんが必要なんだ だから、私はお前さんを生き返らせる 何年かかってでも、何を犠牲にしてでも お前さんに……また逢いたい お前さんの優しい言葉が聞きたい……