● Track01. プロローグ「独り言」
(§)
(【主人公】ベッドで仰向け)
(【ヒロイン】主人公から離れて立っている)
(声のする方向:右)
(距離感:少し遠く)
(◆)
(可愛さと落ち着きが同居する凛としたロリ声)
(声:囁き)
(様子:憤って独り言のように)
まったく…あの犬ったら私の気も知らないで…。
こんなに愛情深く、丁重に扱ってあげているというのに、
それを理解していないようね…。
ええ、もちろん、犬として扱っているのは確かだけれど…
そもそも、この私の犬になれるということが
どれほど名誉なことで、特別に扱われているのか、
ということを理解していないのだわ。
それに…そうよ。
何より今日の、あの言葉。
「ご主人様が俺のことを愛してくださっているのではなく、
番犬を可愛がっているのは理解しています」なんて言葉! ふざけているわ。
それはつまり、私の気持ちを理解していないということの何よりの証拠だもの。
謙虚で忠誠が厚い事は美徳であるけれど、謙遜もここまでくれば不遜。
いえ、あの犬の場合は謙遜ではなくて
本心からそう思い込んでいるのが余計に…もう!
はぁ…一体どうして主人である私が飼い犬のことでこんなに
頭を悩ませなければならないのかしら…。
ふう…。
【一拍】
(◇近づいてくる足音 3秒)
(§【ヒロイン】寝ている主人公の側に座って顔を覗き込む)
(声のする方向:上)
(距離感:極めて近め)
(◆落ち着いた様子で)
寝ているわね…安らかに、幸せそうに。
主人の気も知らないで…と言うのはやめておきましょうか。
寝ている時くらいは、ね。
くすっ…。可愛い寝顔。
外ではかっこいい猟犬なのに、私の前では可愛いワンちゃんなのね。
こういうところは本当に可愛いのよね、この子…。
だから私は気に入って足元に置いているというのに…。
少し、頭を撫でてあげましょうか。
(◇撫でる音 3秒)
よしよし…いい子ね…。
貴方が私の為に頑張ってくれているの、私、よぉくわかっているのよ?
いつだって私を喜ばせようと、私の役に立とうとしてくれて…。
そして、己が身が傷つくのも厭わずに私を守ってくれる。
でも、それだけが貴方を可愛がる理由ではないということ、
どうして分からないのかしら…。
貴方の身体に刻まれた傷の一つ一つ、
その全てが私への愛と忠誠の証だと言うのならば…。
心には、私の愛を、ご主人様の愛情を刻みつけてあげないといけないわね。
くすっ…。
安らかな夜はもうおしまい。
思い知らせてあげるわ。
貴方が、どれだけ愛された存在であるのか。
どれほど私が貴方を気に入っているか、ね。
貴方がいけないのよ?
こんなに可愛くて、油断し切って、
その上主人の愛情を理解していない貴方が悪いの。
一体どんな夢を見ているのかしらね?
悪夢かしら? それとも、幸福な夢?
会いに行ってあげる。そして、たっぷりと可愛がってあげる。
おやすみなさい。
夢の中で、会いましょう?