出会い(会話のみ)
あの。
いい加減起きてください。
わたしの声、聞こえていますよね。
起きてください。ほら。そろそろ目覚める時間ですよ。
…ふぅ。
かなり長いあいだ、こうして声をかけていたのですが。
やっと、目を開けてくださいましたね。
初対面で突然ですが、身体におかしいところはありませんか。
しばらく眠っていたみたいなので…まず異常がないかの確認をさせてください。
…ふむ。
どうやらその様子だと、大丈夫そうですね。
…よかった。ひとまず安心です。
…さてと。
見慣れぬ場所で目覚めて、さぞ混乱していることでしょう。
あなたの状況について、今からご説明いたしますので…。
ひとまず一度落ち着いて、わたしの話を聞いてくださいますか。
…はい。ありがとうございます。
よろしければ起き上がって、そのままわたしの隣にどうぞ。
さて……。どこから説明しましょうか。
ん……ふむ……。
……では、単刀直入に言います。
…まず、この場所ですが…あなたのいた場所ではありません。
あなたたちの住む世界から遠く離れた、はるか空の上……。
"天界"とでも言っておきましょうか。
…この場所に人間であるあなたがいるのは、例外中の例外で…。
本来なら、ここに辿り着くどころか、認識すらできない場所です。
……さて、次にわたし自身についてですが……。
空の上、天界、と言えば、もうなんとなくお分かりではないでしょうか。
………はい。その通り、正解です。
わたしはこの天界に住まう、"天使"です。
不思議に思われることもあると思いますが…。
まぁ、だいたいの部分は人間の女性と一緒ですので。
あまり気を張らずに接して頂けると、嬉しいです。
……ここまで、ご理解いただけましたか。
…………ん…。
なんだか、やけに落ち着いていますね……。
…ぁ、いえ。下手に取り乱すよりはずっといいのですが。
少しぐらいは慌てるかと思っていたので、いい意味で拍子抜けしてしまいました。
…では、最後に。
なぜあなたがここにいるのか、ということですが……。
厳密に言うと、そちらのほうから迷い込んできた、と言ったほうが正しいです。
…と言われても、そんな覚えはありませんよね。
それもそのはず…。
あなたがこの世界に迷い込んでしまったのは、わたしのせいでもあります。
……はい。
どうやら、あなたとわたし…お互いの魂が、非常に強く惹かれ合っているようなのです。
先ほど、人間ではこの世界にたどり着けない、と言いましたが…。
わたしたちには、その不可能を可能にするほどの強い結び付きがある…
ということになりますね。
今まで長い時間を過ごしてきて、わたしもこんな経験は初めてなのですが…。
実際にこうして向かい合っていると、運命のようなものを強く感じます。
…ああ。でも安心してください。元の世界にはちゃんと戻れますよ。
移動の許可が出るまで、しばらく時間はかかりますが…。
わたしが責任を持ってお返ししますので。
……む。
今のは聞き捨てなりませんね…。
…確かにこの姿では、自分よりずっと年下に見えるのは仕方ありませんが…。
わたしは、子供ではありません。
もうとっくに、一人前の天使です。
…こう見えても、天使の中では結構偉いほうなんですから。
見た目だけで判断しないでください。
……………。
本当に分かっていますか?
…その表情、まだ少し引っかかるような気がしますが…。
まぁ、いいです。
この事はまた次の機会に、じっくりと時間をかけてお話する必要がありそうですね。
……こほん。話が脱線してしまいましたが…。
ひとまずあなたには、しばらくここでわたしと過ごして頂くことになります。
見慣れぬ場所で、不安なところもあるかと思いますが…。
少なくとも、そちらの世界よりは快適に過ごせると思いますよ。
…ええ。なにせここは"天界"です。それに、わたしがおりますから。
帰るまでの暇つぶしと思って、くつろいで下さい。
不自由はさせませんので、どうかよろしくお願いしますね。
…それでは、一通り周りをご案内いたしましょう。
どうぞこちらへ。付いてきてください。