Track 13

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勇者

勇者様。 ……はい。おはようございます。 あなたがテントの外でガサゴソと物音を建てるものですから、起きてしましました。 いい夜ですね。 月明かりがきれいで、虫の鳴き声も透き通って。 読書家として、詩の一つでも紡ぎたいような、素晴らしい情景です。 ……。 ……それで、勇者様。 なに、してたんですか? こんな真夜中にこっそり装備を整えて。 いったいどこへ、行く気ですか? ……だんまりですか。 じゃあ私が。当ててあげます。 ……あの国へ、行くつもりなんですよね。 魔界のゲートを閉じて、石化病から国民を救うために。 城へ単身で、忍び込むつもりなんでしょう? ……死にますよ? 「力を失ってもあの国のトップ」って、言ってましたけど。 それでも全盛期とは程遠いあなたに、 城の警備をかいくぐれるとは思いません。 ゲートにたどり着く前に捕まって、処刑台の上。 ……そうなるに、決まってます。 ねえ、勇者様。 どうして、なんですか? 国民から罵られ、家を燃やされ、罪人に、仕立て上げられ。 あの国にはもう守る価値のあるものなんか、 どこにもありゃしないじゃないですか。 それなのにどうして。 ……どうしてあなたはまだ、 人々のために戦おうとするんですか? ……。 そう、ですか。 理屈じゃ、ないんですね。 ……。 はぁ……。(ため息) あのさ、勇者様。 ……私、ホントは分かってました。 石化病の本当の原因を伝えれば、 勇者様がこうするだろうって、ことくらい。 分かってた、はず、なんですけど。 バカだなぁ……私は。 結局、期待しちゃったんですよ。 あなたが勇者で、あり続けること。 あなたの新しい、英雄譚を。 止めは、しません。 止められませんから。私は。 でも、でもさ、勇者様。 すぅ……。ふぅ……。(深呼吸) 【次のセリフはっきりと】 私も、連れて行って下さい。 言ったでしょう?お互いはお互いのモノだって。 こういう時でも、ちゃんと隣にいさせて下さいよ。勇者様。 場転 SE:風の音 旅に出てから三か月。その間に、この国も随分変わりましたね。 見た感じ、もう7割くらいの人が石化したんでしょうか? 道端にすら、何人か石造を見かけますし……。 でも、石化病にかからない、魔力耐性の高い一部りの市民は、 国が儲けてるのもあってそれなりに裕福な暮らしをしてるみたいですね。 まったく、気持ちの悪い現状です。 ん。そうですね。 あと少しで日が沈みますから、そのあとに城の中に潜入しましょう。 それまではこうして、屋根の上で景色でも楽しんで……。 ……ん? あれ?なんですか、この感じ。 肌が、ひりつく……。 何か……。来る……? ……あ。 SE:轟音 SE:咆哮 なんですか……こいつ。 触手の巨人……? ……そうか。そりゃあそうですよね。 魔界のゲートが開いてるんですから。魔物があらわれるのは当然……。 むしろ今まで何事も無かったことの方が、おかしな話です。 SE:町の破壊音 ……えっと、どうしましょう、勇者様。 私、こんな大型の魔物を見たの、初めてで。 こんな……暴力的な魔力。 とても人が勝てる生き物じゃ、ありません。 手が……震えて……。 にげ……、逃げましょう。勇者様……。 SE:剣を抜く音 って、勇者様。 ダメですよ。そんなことしたら気づかれます! ……あ。 勇者様! SE:衝撃音 勇……者様? 嘘。ですよね? 触手の、下敷きに……。 死ん、で……。 ……。 ……は? SE:勇者が攻撃してきた触手を刀で切断する。 すごい……。 SE:勇者、アリシアの隣で剣を収める ああ、いえ。すいません。 あなたの剣があまりにも美しいものですから。 つい、見とれてしまいました。 ……ん。 SE:魔物の咆哮、周辺の建物の破壊音。 はは。やっこさん、あなたに片腕を落とされて、怒り狂ってますよ? ……ええ。エンチャントですね。 了解しました! この世の祖なるマナよ。事象を抱き、理を奏でる演奏者よ。 我は光と火を集め、かの者の剣を作るもの。 我は天と地に祈り、かの者に行く末を託すもの。 水の都、天の花園。 あらゆる祝福は光となりて。かの者が纏い地を駆ける。 「第十三式強化魔法!サクシフラーガ!」 SE:魔法発動 パワー特化のエンチャントです! 勇者様!ぶった切っちゃってください! SE:一刀両断 は……。ははは……。 一撃。ですか……。 勘違いしてました。 あなたは私の予想をはるかに超える、 ……本当に、勇者……だったんですね。 はい。行きましょう勇者様。 あの魔物が出てきた穴の奥。そこに魔界へのゲートがあるはずです。 SE:走る音。 場転 ありました。勇者様。 資料で見た通りの時空の裂け目。 そして周りには、押しつぶされた兵士と、自生した黒いクチナシ……。 魔界の、ゲートです。 ……。 ……あのさ。勇者様。 こんな騒動になったくらいですし、 きっとこの後、勇者様の濡れ衣は晴れるでしょう。 そうなればまた勇者様は英雄として、 この国に、戻ることが出来るかもしれません。 それでも、その……。 この国の復興を見届けた後でも、構いませんから……。 私と旅を……続けてくれますかね……? ……悪くないなって、思ってたんです。 あなたとの、二人旅。 ……ふふっ。そうですか。 なら、うれしいです。 はい。それではゲートの閉門を、行いますね。 あ。一緒にやってくれるんですか? ふふっ、何気に初めてかもしれないです。 勇者様が詠唱魔法を使うのを見るの。 ええ、それでは二人で、唱えましょう。 この世の祖なるマナよ。事象を知り、理を知る全能者よ。 我は祖をたたえ、この世のあり方を探求する者。 我は祖に従い、この世のあり方を守る者。 開かれし災厄の門。あふれ猛る血の獣。 我が指先は知を持って、その異界に施錠を果たす。 「魔界閉門。ディジアマキナ!」 SE:魔界のゲートが閉じる音 SE:三歩前へ 新しい絵本、書かなきゃですね。 こうして勇者様は、病に沈むこの国を救ったのでした。 めでたし、めでたし……。なんて。 ……これからも、お慕いしております。勇者様。

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