後夜祭
せーんぱい。
そろそろ始まるらしいですよ、フォークダンス。
行かなくてもいいんですか?
ふふっ。そーですか。
モテない先輩に、踊る相手がいるわけないですか。
野暮な事聞いちゃいましたね。すいません先輩。ふふっ。
ん?私ですか?
私もまあ……踊らなくていいですかね。
いや、一緒にしないでくださいよ。
先輩と違って私は、その気になればダンスの相手くらい、簡単に捕まえられますよ?ほら私、かわいーですし。
でも私が踊りに行くと、先輩はここで一人ぼっちになっちゃうでしょう?
それがちょとばかり可哀そうなので、踊りに行かないであげることにしたんです。
優しい後輩がいて良かったですね、せんぱい。
……隣、座ってもいーです?
ん。じゃあ失礼しまーす。
んーっ……。ふぅー……。(伸びをして息を吐く)
……にしても。終わっちゃいましたね、文化祭。
ええ、ここまで怒涛の日々でした。
毎日毎日先輩と二人、夜遅くまで部室にこもって準備して。
当日は当日で、予想以上の客入りで てんやわんや……。
二人しかいない部活で、
お化け屋敷なんて企画するものじゃないですよ。ホント。
……いや、なかなか野暮なことを聞きますね。この先輩は。
楽しかったに決まってるじゃないですか。
オカルト研究部として文化祭に費やしたこの一か月は、
間違いなくいい思い出になりました。
終わるのが、今はちょっとだけ、寂しい感じです。
……ふふっ。
……あ。フォークダンス、始まりましたね。
知らないんですか?
アメリカの民謡で、「わらの中の七面鳥」って言う曲ですよ。
いや、振り付けとかは分かんないです。
私、踊ったことないですし。
ああ、でもほら。生徒会の人たちがお手本を見せてますよ。
あれを見れば、分かるんじゃないですか?
……そうですね。
男女二人で組み合って、ステップを踏んで……
まさに、「フォークダンス」って感じです。
楽しそう……ですね。先輩。
……。
ん……。
……ふふっ。
なんですかー?それは。
告白ですか?
そうですか。告白……なんですね。
まーそうですよね。
こんなかわいい後輩と、毎日毎日部室で二人きりなんですから、
惚れない方がおかしいですよね。
しかし、「付き合ってくれ」って普通に言えばいいのに、
「踊らないか?」で済ませようとする当たり、
小心者ですね、この先輩は。まったくもう……。
……ふふっ。先輩、もどかしそうな顔してます。
早く告白の返答、して欲しい感じですか?
んー……そうですねー……。
先輩とお付き合い……ですか。
オッケーだそうかなー……。フッちゃおうかなー……。
どっちにしよっかなー……。
うーん……。
あ。そうだ先輩。じゃあ一つ、条件を出します。
そう。付き合うにあたっての、条件です。
ねえ先輩。
明日明後日と、文化祭の振り替えでお休みじゃないですか。
その二日間のあいだ、私の家に泊まりに来てくださいよ。
そうです。明日から一泊二日、私の家でお泊り会です。
それをしてくれるなら、私、先輩の彼女になってあげます。
どーですか先輩。
私の家、泊まりに来ますか?来ませんか?
と言っても、迷うことなんかないですよね。
彼女の家にお泊りか、フラれるかの二択なんですから。
ね?先輩。
ん。いいお返事です。
それでは現時点を持ちましてこの私、
「雪宮小乃葉(ゆきみやこのは)」は、先輩の彼女になりました。
おめでとうございます先輩。
こんなにかわいい彼女ができるなんて、友達に自慢し放題ですね。
ふふっ。
さて。では私、そろそろ帰りますね。
先輩が泊まりに来るということで、
部屋の掃除とか色々、しなきゃいけないので。
集合場所と時間は、あとでスマホでやり取りしましょう。
また明日。お疲れさまでした。先輩。
ん?なんですか先輩。
いや、踊りませんよ。だって踊ったら……
文化祭、終わっちゃうじゃないですか。