Track 9

『あなたに「告白」をする文香』

;このトラックのマイク位置は、兄を基点としています。 ;SE:ノックをする音 ;SE:扉を開く音 ;ボイス位置:1 入り口のところで、普通に会話 【文香】 「兄さん。夜遅くにごめんなさい」 【文香】 「部屋、暗いですね。あ、ベッドに横になったままで大丈夫です……少し、お話がしたいだけなので」 ;SE:文香がベッドの近くまで歩いてくる足音 ;ボイス位置:3 隣に座って、普通に会話 【文香】 「お話というのは、その……私の気持ちのことです」 【文香】 「急でごめんなさい。けれど、ようやく踏ん切りがついたので……お伝えしに来ました」 ;沈黙を挟む 【文香】 「私……兄さんのことが好きでした」 【文香】 「昔から、女の子として……兄さんのことが好きでした」 【文香】 「お弁当を毎日作っていたのも、膝枕で耳かきをしたがったのも、お休みのたびに買い物に誘っていたのも、ぜんぶ……兄さんのこと、好きだったからです」 【文香】 「私たち、義理とはいえ、兄妹です。だけど私は……兄さんと一歩進んだ関係性になりたいって、そう思っていました」 【文香】 「兄さんの気持ち、聞かせて、貰えますか?」 ;沈黙を挟む 【文香】 「何も言ってくれない……ですか」 【文香】 「……あはは。兄さんは、そんなリアクションをするんじゃないかなって、思ってました」 【文香】 「困ったように笑って、しどろもどろで、優柔不断で……兄さんのそういうところ、昔から変わりませんね」 【文香】 「そういうところ……兄さんの長所だって思ってました。優しい人なんだなって……」 【文香】 「でも、違ったんですね。兄さんは、優しいんじゃなくて……ただ、自分に自信がもてないだけで……」 【文香】 「こうして私が勇気を出してお話をしているのに……ほら。また目を逸らした。昔からずっと、そうです」 【文香】 「お弁当の味付けを変えても、前髪を切っても、香水をつけても……兄さん、ぜんぜん、気付いてくれません」 【文香】 「私。勘違い、していたみたいです。優しい人が好きなんじゃ……なかったんです」 【文香】 「私のことを、ちゃんと見てくれる人。ちゃんと気持ちを言葉にして、行動にして、伝えてくれる人」 【文香】 「告白されたと言ったら、絶対に断れって、強く言ってくれる人……」 【文香】 「乱暴でワガママで身勝手で、いろんな悪いうわさがある人でも……肝心な時に目を逸らすような人より、ずっとずっと……素敵なんだって、気付いちゃったんです」 【文香】 「私のこと、好きなのかどうかも教えてくれない、気持ちを見せてくれない、そんな人より……私、あの人のことが好きなんだ……って」 【文香】 「……勝手に片想いして、勝手にこんなことを喋りに来て、ごめんなさい。これからは、ちゃんと、兄妹らしい距離感で、兄さんに接することにします」 【文香】 「伝えたかったのは、それだけなんです。ごめんなさい。今まで、ベタベタしちゃって」 ;SE:文香のスマホが着信する音(バイブ) 【文香】 「あっ……すみません。電話、かかってきちゃいました。それでは兄さん。これで……」 ;SE:文香が退室する足音 ;SE:ドアを閉める音 ;扉越しに、会話している文香の声が聞こえる ;ボイス位置:9 スマホに向かって、普通に会話 【文香】 「せ、先輩? どうしたんですか、こんな夜中に」 【文香】 「今から、先輩の家に……?」 【文香】 「は、はいっ▼ すぐ行きます。あの、持っていくもの、ありますか? カワイイ服とか、エッチな下着とか……」 【文香】 「そ、それじゃあ先輩。また……後で▼」