Track 5

その日の夜。家出JKを、また拾う

○トラック05.その晩。あらしのよるに。 【美鳥】 「あ……おじさん。おっす。十時間ぶり、くらい?」 【美鳥】 「どうしたの。すごい顔してるけど」 【美鳥】 「あー……美鳥は……また家出中、かも」 【美鳥】 「ん……でも、どう、なんだろ? もう帰らないって決めてる場合は、家出になるのかな?」 【美鳥】 「うん。今日ね。本当のお父さんの命日だったんだけど。お母さん、すっかり忘れて、あの男といちゃこらしてて」 【美鳥】 「……喧嘩してやろうと思ったんだけど、できなかった」 【美鳥】 「美鳥だってするよ。てめぇ、こらぁ、くらい、言うよ」 【美鳥】 「相手に無視、されなかったらね」 【美鳥】 「美鳥ね。本当のお母さんに、いっつも無視されてる」 【美鳥】 「うん。お母さんは、美鳥が嫌いなんだと思う。あの男のご飯は作るけど、美鳥のはない。もう何年も、声すらかけてくれなくて」 【美鳥】 「おじさんの家に10日くらい、いたのかな。今日、久しぶりにお母さんの前に顔を出したら、幽霊でも見たような顔、されちゃった」 【美鳥】 「無視してたら、いつか本当に、美鳥がいなくなると思ってるのかな」 【美鳥】 「ちょっと堪えた、かも」 【美鳥】 「で……おじさんにも迷惑、かけたくなかったから、ここにいた」 【美鳥】 「嫌いな人に嫌われても、美鳥、ぜんぜん気にしないけど……」 【美鳥】 「好きな人に嫌われたり、迷惑かけたりするのは、ちょっと、ほんとに、辛いから」 【美鳥】 「…………いい、の?」 【美鳥】 「美鳥、おじさんのところにいて、いい?」 【美鳥】 「おじさんも、美鳥のこと……好き?」 【美鳥】 「……そか」 【美鳥】 「ね、おじさん。お顔、近づけて」 【美鳥】 「んちゅ、ちゅ、ちゅう、んちゅ……ちゅぱ」 【美鳥】 「美鳥も、好き」 【美鳥】 「おじさんの長所、もう一個、見つけた」 【美鳥】 「うん。世界で一番、美鳥にやさしい」