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白梅編 第一章「ふたりの出会い」

白萩「神様、どうか私のお願いを聞いてください。」 寂れた神社に少女の声が響く。 辺りはまだ薄暗いが、少女の声に同調するように小鳥が鳴き始めた。 騒がしい…二度寝は無理そうだ。 寝ぼけまなこを擦りながらぼんやりと声の主を探すと、強く目を閉じ、手を合わせて祈る少女を見つけた。 あまりにも切実なその姿はどこか懐かしく感じる。 白萩「神様…私にお友達をください。」 白梅「人が来ること自体珍しいのじゃが、願い事も珍しいのう。」 白萩「えっ…!」 屋根からサッと、少女の前に飛び降りた。 少女の黒い瞳は、驚きながらもこちらをジッと見つめてくる。 白萩「あなたは…神様ですか?」 白梅「神様?…う~む、おそらく違うのじゃ。わしは見ての通り狐じゃ。」 白萩「お狐さま?でもそのお姿は…」 食い入るように見つめてくるその視線に、少々気恥ずかしさを感じる。 そういえばこの姿で人前に出たことは一度もなかった気がする。 白梅「お主の疑問はもっともじゃ。わしはもともと人間じゃからの。」 白萩「人間のお狐さま…」 耳と尻尾を交互に見られている気がする。 白梅「そうじゃぞ。耳も尻尾も本物じゃ。触ってみるかの?」 白萩「いいんですか!」 今までにない食いつきだ。 自分も最初の頃はずっと尻尾を触っていたことをふと思い出した。 白梅「ほれ」 尻尾を差し出すと少女は躊躇なく撫で回す。 白萩「は~、もふもふ…もふもふ…」 幸せそうな顔をして何度も何度も。 ものすごくくすぐったい。 白梅「そ、そろそろいいかの?」 白萩「あっ、ごめんなさい!」 言葉とは裏腹に手は名残惜しさを隠せていなかった。 白梅「それはそうとお主、願い事をしていたようじゃの。」 白萩「あ…はい。友達が欲しくて…」 白梅「友達、のう。村には年の近い人間はおらぬのか?」 白萩「いるんですけど…みんな私によそよそしいんです。物心ついたときからそうでした。    でもお姉ちゃんがいて!お姉ちゃんはすっごく優しかったんです!でも…」 白梅「でも?」 白萩「お姉ちゃんも少し前から人が変わったように私にきつく当たるようになって。    私が悪かったのかなって思って何度も謝ったんですけど…」 白梅「姉がもとに戻ることはなかった、と。」 白萩「はい」 孤独な少女、か。 白梅「お主、名前はなんというのじゃ?」 白萩「あ、あの、白萩、です。」 白梅「白萩…よし、ハギじゃ。わしは白梅。今日からお主の友達じゃ!」 白萩「ふぇっ!」 白梅「なんじゃ、わしじゃ不満かの?」 白萩「ないです!そんなことないです!白梅さまがお友達になってくれて嬉しいです!」 白梅「“さま”はやめるのじゃ。呼び捨てで構わんし敬語もいらんのじゃ。友達じゃからの。」 白萩「じゃあ…白梅ちゃん!」 きらきらと輝く白萩の目はとても純粋に見えた。 きっとこれが本来の彼女なのだろう。 白萩「白梅ちゃんはずっとここに住んでるの?」 白梅「そうじゃ。ずっとここで季節の流れを見てきたぞ。数十年…そろそろ百年になるのじゃ。」 白萩「そんなに!?私と同じくらいの年に見えるのに。」 白梅「狐になってから容姿が変わらなくなったのじゃ。」 白萩「それはちょっと羨ましいかも。」 白梅「じゃろう?白萩も狐になりたかったらいつでも言うんじゃぞ。」 白萩「あはは!考えとくね!」 明るく笑うその顔に陰りはなかった。 いつの間にか太陽は高く登り、爽やかな風が頬をなでる。 この時間が少しでも長く続けば、そう願った。

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