1オープニング
いらっしゃい。
ようこそ、「マドンナの癒し処」へ。
私は、店主のリナと申します。
さあさあ、どうぞ遠慮せんとあがってください。
ふふっ、戸惑ってんの、分かりますよ。
一見どんなお店なのか、わかりませんけんね。
というよりも、お店には見えんかったでしょ。
そう、看板が目に入らんかったら、
路地裏にひっそり佇む古風な民家やと思って、
気にも留めんと通り過ぎてまう……
ええ。
わざと、なんですよ。
流行らせたろ思て始めたお店ではないんです。
ひとときのちょっとした癒しを提供する場所ですけんね。
流行ってしまったら落ち着きがのうなってもうて
ゆったりしていただくことなんてできませんけん。
ふと気づいた人だけが、
ふらりと立ち寄って心身ともに安らげるような……
そんな、さりげないお店なんです。
店名の由来ですか?
ああ、マドンナいう言葉が気になって、
寄っていただいたんですね。
ええ。
マドンナというのは、
『坊っちゃん』に登場するマドンナからとっとるんです。
ここ松山はその舞台ですし、ぴったりでしょ?
それに、お恥ずかしい話ですけれど、
私も小さいころ、マドンナだなんて呼ばれとったことがあって……
えっ?
お客様の初恋の女性もマドンナと呼ばれとったんですか?
それで気になってお店へ……
あらあら、不思議なめぐり合わせもあるんですね。
あら、その方のお名前もリナ……
私と同じなんですか。
ほうですか、忘れられん相手でいらっしゃるんですね。
たしかに私もリナという名前で、
幼いころはマドンナと呼ばれとったんです。
さあ、あなたのおっしゃるマドンナのリナが、
私かどうかは……
でも、私はあなたを癒すためにここにおりますけん。
どうぞ、今日はごゆっくりなさってってくださいね。