『プロローグ
トラック1
(夜、純香が弟の部屋を訪れる)
若様。
……若様、純香(すみか)です。
失礼致します。
(少しぎこちない会話)
お風呂にはもうお入りになりましたか? ……大変結構です。
ですが、湯冷めされないよう、冷たい飲み物の取り過ぎには注意なさってください。
虫歯になるのでジュースや炭酸の類(たぐい)もお控えくださいね。
(気まずい間)
……学業の方は順調ですか?
来週は中間試験があると伺(うかが)いましたが。
……そうですか。
必要であれば私(わたくし)もお手伝いしますから、若様は是非「菱倉(ひしくら)」の名に恥じない成績をお修めください。
……それから、今晩も夕食を残されていましたが、最近食が細くなっていらっしゃいませんか?
多少の好き嫌いがあるのは仕方ありませんが、若様はまだ成長期なのですから――
(割り込まれる)
……なんでしょうか?(「若様」という他人行儀な呼び方を止めて欲しいとお願いされる)
……以前にもお話しましたが、若様は明治時代から続く名門「菱倉(ひしくら)家」の嫡男(ちゃくなん)、つまり次代の当主となるべきお方です。
一方で私は妾(めかけ)の娘であり、当主様の恩情でこの屋敷に置いて頂いているだけの存在に過ぎません。
ですから、血の繋がりこそあれ若様と私の間には厳然たる身分の違いがあるのです。
使用人たちの目もある以上、私達が人並みの姉弟(きょうだい)のように親密に振舞うことは許されません。
若様も良いお歳なのですから、そろそろお世継ぎとしての自覚をお持ちになってください。
(落ち込む弟を見て少し困りながら) ……ですが、そうですね。
では、二人きりの時に限り、呼び方だけでも変えるように致しましょう。
私も……貴方(あなた)と他人行儀に接したいというわけではございませんので。
これでよろしいですか?
……はい、では以後そのようにお呼びします。
(小さく息を整え直して本題に入る)はぁ……少々話すぎてしまいましたね。
お喋りも結構ですが、あまり遅くなると睡眠確保の妨げとなってしまいます。
そろそろ本題に入っても構いませんか?
……では、お聞きします。
(「オナニー」と同じイントネーション)今宵(こよい)もオナ姉(ねえ)、なさいますか? ……かしこまりました。
早速準備を始めましょう。