プロローグ【魔王城その1】
[魔王]:
勇者か。
よくぞここまでたどり着けたものじゃ。
褒(ほ)めてやろう。
わらわは魔王レイダ。
歴代十二魔王の中でも最強の魔力を持つ、マジックマスター。
超越魔道士、トランセンデンタルソーサラーとも呼ばれておる。
《勇者 魔王をにらみつける》
ふふっ、よい面構(つらがま)えをしておるな。
じゃがその気迫だけでわらわを倒せるなどと、思い上がらぬことじゃ。
ここまでの戦(いくさ)で仲間を失い、満身創痍(まんしんそうい)になった汝(うぬ)の手で、いったい何ができる。
おとなしく降伏(こうふく)するのじゃ、さすれば…。
汝(うぬ)はただ慰(なぐさ)みものに墜ちるだけで、命まで失うことはないじゃろう。
《ジャキリッ 剣を抜き勇者が身構える》
[隊長]:
レイダ様! おさがりください。
親衛隊長の名にかけて、ここは私めが。
[魔王]:
よい、ミリアよ。
勇者は剣を抜いたのじゃ。
これがこの者みずから選んだ「最期の選択」となろう…。
なれば魔王として、持てなしてやらねばならん。
[隊長]:
しかしレイダ様、この男は…。
[魔王]:
さがっておれ。
[隊長]:
はっ。おおせのままに…。
[魔王]:
勇者よ、その意気(いき)や良し。
せいぜいわらわを楽しませてみせよ。
《勇者 間合いをとる》
[魔王]:
参(まい)れ。
《決戦用BGM She Was There》
《魔王の波動》
《勇者敗北 倒れる》
[隊長]:
お見事でございます、レイダ様。
ですが此奴(こやつ)はまだ、息があるようです。
曲がりなりにもここまで攻め入(い)った手だれの者。
今のうちにトドメを刺しておくべきかと。
[魔王]:
利用できる。
[隊長]:
利用…でございますか。
[魔王]:
そうじゃ。
勇者をわらわの配下にする。
無論、この者みずからそれを選ぶはずは…ないがのう。
[隊長]:
畏(おそ)れながらレイダ様、かように屈強な勇者となれば…。
魔族(まぞく)の配下とするためには、それ相応の「意識の改ざん」が、必要になろうかと。
[魔王]:
退行(たいこう)魔法をかける。
体(からだ)まで小さくなるわけではない。
じゃが、魂は子供にもどる…。
魔族の乳を飲まされ育った者は、体中に魔素(まそ)がめぐり、みずからを魔族と思わぬわけには、いかなくなるはずじゃ。
[隊長]:
はっ。
[魔王]:
これにうってつけの夢魔(むま)がおる。
勇者よ…。
すべては夢うつつの中で…。まるですべてが、幻のように…。
汝(うぬ)の人生はここで終わり、新たな命を生きることになる。
《詠唱と洗脳》
それは本来、汝(うぬ)が歩むべきはずであった、真実の命――。
こうなることが汝(うぬ)にとって幸せなはずであった、理想の命じゃ。
さぁ、力を抜け…。
抗(あらが)う気持ちを捨てた方が、楽になれる。
そうじゃ…。
汝(うぬ)の体が、軽ぅくなってゆく。
すーっと軽く、身も心も、徐々(じょじょ)にすべてが楽になってゆく…。
いったい何(なに)のために、汝(うぬ)はここにいるのか…。
もうそれさえも、今はどうでもいい…。
何もかもがどうでもいい過去の記憶の底(そこ)へと、沈められてゆく…。
10…9…8…7…。
その記憶は汝(うぬ)にとって、必要のないものじゃ…。
不必要なものであれば、そこに置いておく意味がない…。
頭の中からいらなくなった記憶が、すーっとぬけてゆく…。
6…5…4…。
記憶がぬければぬけてゆくほど、汝(うぬ)の体は…その魂(たましい)とともに、どんどん若返ってゆく…。
3…2…1…。
次にわらわが0(ゼロ)と告げたとき、汝(うぬ)の記憶は完全になくなり…新しい命が始まるのじゃ…。
まるで偽りのサナギの身から、本来の自由な蝶へと、変身をとげるように…。
《5秒間をおく》
0(ゼロ)…。
汝(うぬ)は今、0(ゼロ)歳児じゃ…。
さぁ、いくがよい。優しい母のもとへと。