8 ホテルにて
それじゃ、乾杯
どうしたの
うちで飲んだ時とは
だいぶ雰囲気が違うから
もしかして
緊張してる
表情
固くなっちゃってるわよ
そうね
見たこともない料理が
並んでるから
そわそわしちゃってるのね
一口食べてみて
緊張なんて
飛んでいっちゃうぐらい
とっても美味しいから
うん
そのままいつも通りに
食べて
私も
いただこうかしら
ね
美味しいでしょ
肩の力だって
どんどん抜けてくはずよ
君は本当に
美味しそうに食べるわね
とても
可愛らしくて魅力的だわ
はぁ
初めて手料理を
食べてくれた時も
そんな顔をしてくれたわね
思い出しただけでも
心が温かくなっちゃう
ん
どうかしたの
なんだか
不思議そうな顔をしてるけど
あ
ふふふ
そうね
その疑問は
当然生まれるはずだわ
夫もおらず
仕事をしているようにも
見えない私が
どうしてこういう
レストランでの食事に
慣れてるのかなって
素直なところも
可愛いわね
わかりやすく
顔に出ちゃってるんだもの
君が何を考えているのかなんて
まるわかりよ
そうね
君には話していなかったもの
私のこと
きっとミカにも
聞いてないんでしょ
私
仕事で小説を書いているの
ん
割と売れてるのよ
それで十分な稼ぎもあるし
ミカだって
もう大学生だから
手のかかる歳でもないでしょ
だから小説を書いているとき以外は
おいしい料理を食べ歩いて
暇をつぶしているの
その途中で
このレストランを見かけてね
つい足を運んだら
ふふふ
たってもおいしくて
何度も来ているのよ
でも
ミカには
内緒ね
ミカとはまだ
一度も来ていないの
誰かと一緒に
ここに来るなんて
君とが初めてよ
ありがとうございます
実を言うとね
ここ最近は
君が家に来てくれるんじゃないかって
家で仕事をしながら
待っていたんだけど
君だって
大学に行かなきゃいけないでしょ
ミカとのこともあるし
だから
少し寂しかったわ
君から連絡のない日が続くと
どうしてもね
娘の彼氏相手に
そんな感情抱えちゃいけないはずなのに
え
さ
そうよ
君が
好きよ
最初は勉強だなんて言って
始めてしまった関係だったけど
徐々に心が
惹かれてしまったの
ミカの口から
君の話を聞くたびに
会いたくなってた
感情が顔に出やすい
素直なところとか
気づいたら
好きになってたわ
でも
心配しないね
君のことを
心配しないで
でも
心配しないね
返事はいらないの
君にはこれまで通り
ミカだけを
愛してあげてほしいの
次の大会が終わったら
部活動も落ち着いて
って
時間ができるみたいだから
急にデートの予定が
なくなっちゃうことも
ないはずだし
私に会う時間も
なくなるはずよ
だから
いいの
君が困ったように
笑わなくたっていいの
返事なんて
一切考えないで
ただ聞き流してくれるだけで
いいわ
いつかは終わる関係だけど
ちゃんと伝えたかったの
こんな気持ちになったのも
久しぶりだから
さあ
食べましょ
せっかくの料理だもの
冷めちゃったら
もったいないわ
ここのお店
食後のデザートも
とても美味しいの
もちろん
お会計のことなんか
気にしなくていいのよ
私がミカの代わりに
埋め合わせをしたかっただけだもの
気にせずに
食べなさい
君の食べている時の顔
とっても大好きだから