プロローグ.蜘蛛の子は散らさず
いつからだろうか? 自分が魅力的に思う異性。
好きなタイプ。
いや、もはやこれは性癖だろう。 雨が強くなってきていることを、
車にぶつかる雨音の激しさから察した私は、
なかなか変わらないことで有名な車用信号機を横目に、
過去を振り返る。 幼少期から学生時代まで、
色恋の話題で色めき立つ学友たちを見て、
私、門沢静音は一人、
冷め切った表情を示していた。 友人たちの話を聞いていると、
同級生、担任の先生、先輩、
それぞれの思い人がいた。 しかし、私は何も当てはまらなかった。 別に、このことがコンプレックスになるわけでもなく、
きっと私には無縁なことだろうと割り切っていた。 しかし、周りに恋愛ができて私にできない。
この事実に、苛立ちを覚えて仕方なかった。 何事も着実にこなせてきた私に、
できないことなどあるものか。 そんな苛立ちのような、
ドス暗いオーラをまといながら歩いていると、
何かにぶつかった。 子供だった。
私より小さな子供。
年下の男の子。 大人げないが、私は苛立ちのままに、
その子を睨みつけ、
八つ当たりかのように叱りつけた。 みるみる曇っていく表情。
雨粒のような涙をこぼし、
謝る男の子を見て、
私の脳は、下腹部は、
初めての感覚を覚えた。 ああ、これか。
友人たちが言っていた感覚は、これか。 そこからの記憶はあやふや。
気がつくと、私の股間で、
泣きじゃくっている男の子がいた。 これが、私の初恋にして、初体験。 それからというもの、
いろんな手を使って、
多くの男の子を食い物にした。 早く彼らの記録を部屋で振り返りたいものね。 あら、あの子。
確かうちの子の友達、よね。 大雨の中、
傘もささず走る男の子を見つけた。 横顔、後ろ姿。
見覚えがある。
確か、一度うちに遊びに来たはず。 その時に、
とても私好みな反応をしてくれそうな子だなと、
舌なめずりしたことを覚えている。 ああ、いいことを思いついた。 まだうちの子の周りに手を出すのは
タイミングじゃないと思っていたのだけれど。 あちらからこの子が来たのなら、
しょうがないわよね。 あら、私、舌なめずりしてしまってる。
いけないわ。
平常心、平常心。 私は信号機が青に変わったことを確認し、
少し車のスピードを上げる。 彼が怪我をしないように。 だけど、水たまりが彼に浴びせられるスピードで、
彼に近づく。 雲の子を散らしては、
私の生えある未来に近づけないもの。