Track 2

2-1.プロローグ.蜘蛛手格子

私を癒す者。 校庭から聞こえる生徒の声。 廊下を走る上履きの音。 体育館の床を鳴らす運動靴。 うん。 言い出したらキリがない気がする。 そして私は、とある学校の教師。 つまり、これらを聞き放題な環境なわけだ。 死に物狂いで試験を受けてよかった。 さて、これらの情報だけ聞くと、 私、岡崎沢のことを、 佐々木教師という仕事に熱意を持ち、 大変正当で熱心な教育者と感じるだろう。 否。 断じて否である。 下心しかなく、不純な理由。 端的に言うと、 年下の男の子が好きなのだ。 憐れむのではなく、 性的に、性欲の対象として見ている。 学生時代、 小さな男の子に横溢な気持ちを抱えたが、 大人になるにつれて、 小さすぎなくてもいいことに気づいた。 きっと、 私よりひと回り以上年下の男の子が、 私という女に屈服し、 精に溺れる様子を見ることが好きなんだろう。 我ながら屈折しているなとは思いつつ、 そんな自分が嫌いではない。 私は欲望のまま、 たくさん男の子をつまみ食いできるであろう、 教師の道を志したのだ。 教育実習生だろうが、 入ってしまえばもうこちらのものである。 学生なんて、 大人の女が嫌でも魅力的に思えてしまうのだろう。 少しメスの反応を見せて、 「先生や友達には内緒だよ」 こんなセリフをこぼせば、 胃袋ならぬ金玉を握れる。 ああ、 なんと完璧な日々なのだろう。 そろそろ担任クラスを持てるようになり、 1年ほど経つのかな。 今目つけてるあの子、 そろそろ食べちゃおうかな。 うーん。 まあ焦らなくてもいいのかな。 彼女とかできてから食べる方が、 絶対美味しいし。 いやだ、もうこんな時間。 そろそろ帰ろうかな。 ああ、靴がびちょびちょ。 結構歩いたけど、 タクシー捕まえようかな。 ん? あの車、なんかグラグラ揺れてる。 大丈夫かな。 近づいてみよう。 ん? えっ、ひゃっ。 え? ひゃっ。 車の中を軽く覗き込み、 思わず走り出してしまった。 明らかなに歳が離れてる男女のセックス。 あれは絶対に歳が離れている。 だって、 うちの制服を着てた。 あれって、 うちのクラスの、 しかもあの黒髪の女、 角沢くんのお母様だよね。 三者面談の時、 うっすら息子を見る目が、 愛情とは別のものを感じたけど、 私と似た思考だったとはね。 別にそれはいいけど、 私が目をつけてた子にお手つきは許せないんだけど。 イライラする。 本当にイラつく。 ああ、そうか。 利用すればいいんだ。 友人の母親と関係を持つ生徒、 売春付けのネタではないか。 私はスマホのカメラを起動する。 車内の様子が見えるようズームをする。 君はセックスの時、 そんな表情をするんだ。 その表情、 早く私色に染め上げたい。