⑤雨と真実と…
<雨がしとしとと降る真夜中。寝静まった男に剣を持ったニアが近づく>
≪剣を持って布団に侵入し、男に跨って上から突き刺そうとしたところで目が覚める≫
【ニア】
……なんじゃ、起きてしもうたのか……
そのまま眠っておれば、安らかに逝けたものを……
おぬしは、父上の仇……わしの、敵じゃ……すまぬな……
……どうして、抵抗しない……?
このままじゃとおぬし、死んでしまうのじゃぞ?
…ふっ…自身に降りおろされんとしている剣を前にして、表情ひとつ変えぬとは……
父上に立ち向かった勇気、本物のようじゃの……
≪剣を床に落とす≫
……なぜじゃ……なぜ、おぬしなのじゃ……
わしは…仇を見つけるために、降りてきたというのに……
なぜ………おぬしは、殺せぬ………すまぬ、父上………
わかってはおったのだ……父上に非があることは……
自身の力を制御できずに、闇に呑み込まれてしもうた……
わしや母上では到底押さえつけることはできず……
里の者が止めるのも振り切り、下界に降りていった……
人間界に災厄をもたらす……
最悪の結果を、誰もが覚悟した……
じゃが、意外にも父は討たれ……
人間界は破壊されることなく、今も平穏と共にある……
母上は、父上が討たれたことに安堵し、そして泣いた……
わしは泣けなかった…あまりにも唐突で、実感が湧かなかったから……
……我ら竜族の者は、うちに闇を秘めておる……
遥か昔、天を焦がし、地を割り……ほんに、ただの災厄じゃった……
我らとて、ただ破壊を繰り返したいわけではない……
なんとか自分のうちに力を押さえ込み、人間の姿で世に馴染もうとした……
じゃが、強大すぎる力を前に、屈服してしまう者もおる……
父上は強すぎた……そしてわしにも、その血が流れておる……
わしはむしろ、おぬしに殺されるべき者……
母上が倒れた今、この血を受け継ぐのは、わしだけじゃ……
……ふふ、そんな悲しそうな目をするな
ひとつだけ、方法はある……
それは、愛する者に、愛されること……
そして、自身からも、愛してあげること……
父上と母上はそうやって、お互いの力を沈めあってきた……
じゃから母上は死の間際、わしを下界させたのじゃ
里には、わしと添い遂げられる者はおらなんだ……
どこかにいるはずだったのじゃ…わしの、唯一の伴侶が……
勝手に惹かれ合い、出会う者……
まさかそれが、父上の仇だとは、思うてもみなかったがの……
……ありがとう、父上を鎮めてくれて……
おぬしのような者に討たれたのなら、父上は本望だったじゃろう……
さぁ、選ぶがよい……
英雄として、再び災厄となりえる竜族の者を葬るか……わしを娶り、愛してくれるか……
≪起き上がり、ニアに口付け≫
【ニア】
ん…っ…ふ、ぁ……っ……ん……ふ、ぅ……
これが……口付け……? 好意の、証……
……良いのか?
わしは貪欲だぞ? おぬしを…一生縛り続けるぞ?
…ふふ、今さら後悔したような顔をしても遅いわ
これからおぬしは、最高の幸せ者になるのじゃ
声を失った悲しみは、わしが沈めてやる…
不便さは、わしが代わりに喋って補ってやる…
父上の業は、わしが背負ってゆくから…
だから、わしのことも…たんと幸せにしておくれ…