00.部屋にいたのはメイドさん
あ、坊ちゃま。
お帰りなさいませ。
本日のパーティーはいかがでしたでしょうか?
まあ、坊ちゃまのことですから、いつも通りにそつなく終えたことでしょう。
あー、私ですか?
坊ちゃまがお屋敷を離れている間にお掃除を、と思いましたので。
いつも以上に時間をかけ、部屋の隅々までより丁寧に、より丹精にお掃除しておりました。
それでまあ、お掃除を終えて時間を持て余してしまいましたので、
ここで坊ちゃまのお帰りを待っていた次第です。
決して、サボっていたわけではありませんよ。
ふふっ、それにしても本当に大きくなられたもので。
幼き日の坊ちゃまはパーティーの日になると「怖い怖い」と、私の袖に泣きついてきましたのに。
あの頃はどうしたものかと使用人一同で頭を悩ませたもので。
懐かしい話でございます。
長らく坊ちゃまのお世話を任され、
礼儀作法からお勉強まで様々なことをお教えしてきましたので、
そうしてお帰りになさる姿に感慨深くもなるというものです。
あとは、そうですね。
婚約相手がいれば、文句無しのパーフェクトでしょうね。
冗談で言っているのではありませんよ?
坊ちゃまも、自分の立場というものを理解した上でお考えになれば、わかることと思います。
坊ちゃまのお年で結婚はまだ早いにしても、
許嫁がおられる方や、婚約をされている方はおいでのはず。
なのに坊ちゃまときたら…
"いつも通り、そつがない"ですからね…
自分からご令嬢の方々に話しかけることは少なく、機会はあっても社交辞令的な会話のみ。
もう少し自分をアピールするようなことをされてもよろしいのに。
そこが坊ちゃまのいいところであり、悪いところでもあり。
…ふーむ、…ふっふっふっ…
これこそ、世話役としての最後の務めですかねぇ。
いえいえ、なんでもございませんよ?
それでは私はこれにて退散させて頂きます。
なにかございましたら、お呼び下さいませ。