導入
やぁ、こんばんは。
とりっく・おあ・とりーとぉ♪
…あれ?
なんにもくれないの?
ふぅん…
じゃぁ…
いたずらするしか、ないかな♪
ふふっ…
なにをしようかな?
こっち側のヒト相手だと、何がいいのかなぁ…?
んー…じゃあ…
ボクの世界に、連れてっちゃおっかな?
んー?
なにそれ、って感じかな?
この国じゃどうか分からないけどね…
ハロウィンの時は、仮装した子供たちに混ざって、本物があそびに行ってもいい事になっててね?
気付かれないように、こっそり紛れて、お菓子貰ったり遊んでもらったり…
色々するんだ。
ともだちとか恋人を作っちゃう子もいたなぁ…
なぁんにも知らない子供に、イロイロ教えるの…
病みつきになっちゃった、ってサキュバスの子が言ってたっけ。
ふふっ、楽しそうだったなぁ…♪
ボクは、あんまりあっちじゃ遊びに出させてもらえなくて。
普段は管理役なんてやってるから、遊べないんだよねぇ。
いーっつも、カブをくりぬいて火を入れて、ソレを明かりに見回りばっかり。
気分だけでも仮装しようと思って、ちょっとダボっとした格好にしたら「男」とか呼ばれちゃうし…
しかもソレが定着しちゃってさ。
そりゃ、胸は確かにちょっと小さいし、男の子っぽいとは言われるけどさー…
そのまま、「男」はないと思わない?
何さ、ジャック・オ・ランタンって。
完全に男に対する呼び方じゃないか。
失礼しちゃうよ、ホント。
…っと、話がそれちゃったね。
今回は、管理役をサボる余裕があったから、遊びに来たんだけど…
いざ遊ぶってなると、何していいかわかんなくてねぇ…
でもほら、ボク、ずっと管理人やってたからさ、道案内とかすっごい得意なんだよねぇ♪
普段は、魔界に入り込んじゃった子を、迷わずにこっちに送ってあげるのが仕事だったけど…
逆に、ボクたちの世界に連れ込んじゃう、っていうのも、面白いと思わない?
幸い、道は完璧に覚えてるし…
危なくない順路で、ボクのうちまで連れてってあげる♪
うちについたら…ふふっ♪
キミのこと…
食べちゃおうかな♪
とぉっても甘くて、とぉっても、気持ちいい体験…
させてあげるよ♪
ふふっ…
あ、でも…
体を連れてっちゃうのはちょっとめんどくさいから、ココロだけね。
だって、その方がイロイロ便利だからね♪
ヒトの脳みそって、すごくってね…
イメージをしっかり出来れば、なんでも出来ちゃうんだよ。
夢を見るのに、近い感覚かなぁ。
とはいえ、あんまり細かいイメージだと、維持するのが結構大変だから…
今回は、カンタンなイメージにしようか。
っと、その前に…
あんまり体の感覚がはっきりしてると、イロイロめんどくさいんだよねぇ。
ちょっとした事で、体に引っ張られてイメージが消えちゃったりしてさ。
だから、体の力を、ぜぇんぶ抜いて…
感覚を、ぜぇんぶ、眠らせて…
脳の全部を、イメージに使えるようにしちゃおうね。
さてと、それじゃ…
とりあえず、横になるなり、イスに座るなり、適当に楽な姿勢になって。
長い時間そのままでも、疲れない格好が理想かな。
最近寒いし、毛布とかあったらくるまっておいたほうがいいよ?
鈍感になってるとはいえ、寒いのは寒いからねぇ…
生理現象までは、ちょっと止められないし。
んー…
準備、出来たかな?
それじゃ、目をつむって。
はい、深呼吸。
吸って-…
吐いて-…
吸って-…
吐いて-…
はい、普通にしていいよ。
さて、それじゃぁ…
力、抜いていこっか。
んー…
腕…ううん、肩かなぁ。
軽く、くるくるーっと回してみて?
はい、ストップ。
そのまま、力を抜いちゃって。
そのまま、肘とか、手首とか、手とか…
流れで、一気に力を抜いていっちゃおっか。
はい、すーっと力を抜いていくー…
ほら、どんどんどんどん、だらーんとしていく。
だらーん…
だらーん…
うん、良い感じだねぇ。
じゃ、そのまま、脚も力を抜いて行こっか。
はい、力を抜いて-…
足の付け根から、ふともも…
ひざ…足首…
足の先…
力が、すーっと、流れて抜けて行くー…
どんどんどんどん、だらーんとしていくー…
うん、いいよー。
体は、これでいいかなぁ。
次は、ココロだね。
ボクの言葉をよぉく聞いて、イロイロ、自由にイメージしてくれればいいよ。
別に、難しいことじゃないでしょ?
例えば、ほら…
あったかーいオフロに入ってる時とか。
体の汚れとかを、ぜーんぶ落として、綺麗になって。
ぽかぽかのお湯に包まれて。
じーんわり、じーんわり。
ぽかぽか、ぽかぽか。
聞いてるだけでも、なんとなーく、イメージ出来ちゃうでしょ?
今やって欲しいのは、ただそれだけ。
じゃ、続けるね。
お風呂に入ってると、身体中がお湯に包まれて、気持ちいいね。
でも、ただあたたかいだけじゃないでしょ?
少し、体をよじると、お湯が動いて…
それにゆられて、体も動くよね。
ちゃぷん…
ちゃぷん…
ゆっくり、ゆっくり、波に揺られて…
ココロも、体も
ゆらーり…
ゆらーり…
揺れる…
揺れる…
暖かさに、心地よさに、包まれて…
ゆら~り…
ゆら~り…
ほら…
声に…
お湯に…
身を任せて。
ゆら~り…
ゆら~り…
揺れる…
揺れる…
ココロを、体を、優しく揺られていると…
ふわふわ、ふわふわ、浮かぶような感覚が、生まれてくる。
ゆら~り…
ゆら~り…
揺れる…
浮かぶ…
ぽかぽか…
ぽかぽか。
ゆら~り…
ゆら~り。
だんだん、ココロが、落ち着いてくる。
とっても、心地いい…
心地いい感覚に、包まれて…
だんだん、だんだん、意識に、靄がかかってくる。
ただただ、心地いい。
心地よさの中で、ボクの声だけが、聞こえている…
ゆらーり…
ゆらーり…
声に、波に、揺られていると…
意識が、ふぅんわり、浮かんでいく。
ゆらゆら…
ふわふわ…
意識が、ふわふわ…浮かぶ。
感覚が、だんだん、だんだん、ぼんやりしてくる。
肉体の感覚が、すぅっと、消えて…
ただ、ぼーんやりとした、意識だけになる。
ただただ、心地いい。
あたたかい。
他には…何も無い。
あたりは、真っ暗で…
ただ、キミだけが、そこにいる。
闇の中に、ぽつん、と、ひとつ存在する、ぼ~んやりとした、ヒトガタ。
それが…キミ。
他には、何も存在しない。
上下も…
左右も…
よく、わからない。
自分の体の感覚も、なんだか、ぼ~んやりとして…
よく、わからない。
腕と、足と…
頭と、体。
ただ、それだけ。
ここでは、細かい事を意識する必要なんて無い。
ただ、ぼんやりと、存在しているだけでいい。
別に…誰が見てるわけでも、ないんだから。
ボクの声だけが、響いて…
キミの意識だけが、そこにある。
それで、いいんだよ。
今、キミがいるのは…
とっても暖かくて、とっても心地良い、闇の中。
この、真っ暗な世界はね…
ボクの世界と、キミの世界の、丁度中間にある世界。
世界と世界の、狭間の世界。
ごくごくたま~に、人が迷い込む以外には…
ほとんど、誰も訪れることの、ない世界。
なんのしるべもない。
なんのあかりもない。
なんだか、あま~い香りがして…
とっても、あたたかくて…
すごく、心地いい、優しい闇のある世界。
もっとも…ハロウィンの時だけは、特別だけど。
ほら…最初に言ったでしょ?
ここなら、誰にも邪魔されることがないから…
気に入った子を連れてきて、イロイロ、遊んじゃう魔物がいる、って。
まぁ…行き過ぎたことがないように、ボクが管理してるんだけど、ね。
サキュバスなんかに、たまーにやり過ぎちゃう子がいてねぇ…
あの子たち、この世界にこっそり潜んでたりするから、気を付けないとね。
吸いつくされるまでは行かないまでも…
結構、がっつりいかれちゃうからね。
まぁ…ボクがそばにいる限り、何もして来ないけど、ね。
さぁ…それじゃ…
そろそろ、一緒にいきましょうか。
ボクのうちに、連れてってあげる。
いいかい?
はぐれちゃったら、探すの、大変だから…
しっかり、ボクの声に、ついてきてね。
ほら…こっちだよ。
こっち…
こっち…
ほら…こっちだよ。
こっち。
さて、と…
ここからが、大変なんだよねぇ…
いいかい?
ここから先は、
複雑な道のりだし…
樹海なんかと一緒で、
ただ、歩いてるだけじゃ、
まっすぐは歩けないの。
ボクの声がする方に、
常に、意識を向けて…
ちゃんと、
ついてこないと…
簡単に、はぐれちゃうよ。
出来るだけ、こまめに声をかけるから…
ボクの声に、ついてきてね。
ほら…
こっちだよ。
こっち。
こっち。
くすっ…
あまーい空気を、たーっぷり吸い込みながら…
ふわり…ふわりと、お散歩。
声を、聞きながら…
声の方向を、意識しながら…
ふわふわ…ふわふわ…
歩いて行く。
あま~い世界に、侵されて…
頭の中が、
どんどん、
どんどん、
とろとろになっていく。
ふわふわ、ふわふわ…
声を、たどっていくと…
だんだん、だんだん…
意識が、ぼんやりとしてくる。
心地いい、闇の中を…
声だけをたよりに、
ふわふわ、ふわふわ、
歩いて行く。
でも…
とっても、あまくて…
とっても、心地いい香りに包まれて…
あまり、疲れは、感じない…
ただただ、心地いい…
ただただ、気持ちいい…
ぼーんやりと、きもちいーい感覚に、包まれながら…
ボクの声を、追いかける。
ほら…
こっちだよ…
こっち…
こっち…
ぉーぃ…
ほら…ちゃんと、ついてきて…(囁き