Track 2

導入

[02 - 導入.wav] ごめんね、少し、待たせちゃったかな。 ようこそ、魔女の館へ。歓迎するね。 君が、今回わざわざ来てくれた助手希望の人だね。 どうかな、噂の魔女の館へ入った感想は。 え? 近隣では魔女の館じゃなくて魔女っ子の館って呼ばれていた? ……なにそれ、意味わからない。 悪いんだけど、私はもう「子」なんてつけられる歳じゃないわよ。失礼しちゃうわね。 ……なに笑ってるの? もう。まぁ、良いわ。 それじゃあそこに座って。 悪いんだけど、君をすぐに私の実験室に連れてくことは出来ないから、 面接はこの部屋でさせてもらうね。 何でって、貴重だったり壊れやすいものもあるし、それに落ち着かないもん。 一応、ここもゲストルームだからそれなりにゆったりしてるでしょ? だから、面接はここでやるわ。 さてと、助手希望の件だけど……まぁ、動機とか来歴なんかはどうでも良いかな。 それより重要なのは私の魔法との相性よね。 当然だけど、まったく方向性の合わない人とやっていけるほど器用じゃないわ。 どれだけ有能だろうとね。 それじゃ、相性をゆっくり調べていくから、そこのベッドで横になってもらえる? 力を抜いて、楽にして横になっていてくれれば良いよ。 面倒なことは全部私がやるわ。 魔法にどの程度耐性があるか確かめるだけだから、無理に抵抗しようとしたりしないでね。 非協力的だと採用なんてしないよ? わかったら力を抜いて無抵抗にしていなさい。 私の言葉によく耳を傾けて、素直に受け入れてくれるだけで良い。ね?簡単でしょ? じゃあ……まず、目を閉じて。 それと、手足をなるべく動かさないようにして。 例えばね、痒くて集中出来ない場合は別に動いても良いよ。 でも、用もないのに好き勝手に動かれると上手に相性を調べられなくなっちゃうの。 魔法はね、繊細なの。その辺、理解しておいて。 それじゃあ、始めるよ。まず最初に大きく息を吸ってー。 (2秒くらいテーといい続ける) はい、ココで息を止めて。 5 4 3 2 1 0 はい、吐き出してー。 もう一度大きく息を吸ってー。 (2秒「テー」といい続ける) はい、また息を止めて。 5 4 3 2 1 0 はい、吐いてー。 さっきと同じように。 大きく息を吸ってー。 (2秒「テー」といい続ける) 息を止める。 5 4 3 2 1 0 まだやるよー。はいー大きく吸ってー。 (2秒「テー」といい続ける) 5 4 3 2 1 0 はい、おしまい。気分はどう? 少し苦しかったかな。 息を止めて、脳にある酸素をわざと少なくさせたからね。 酸素が少なくなることで、思考力が若干低下するの。 そうすることで脳の抵抗は結構減るんだよ。意識・無意識問わずね。 まぁ、別に私のいうこと全てを理解はしなくても良いから。 説明するのは癖みたいなものだから、あまり気にしないで。 君はそのまま目を閉じて、普通に呼吸してくれれば良い。 そうするだけで、ちゃんとプロセスは進めるから。 安心して。今の所、君はとても上手くやってる。 そうだね……。少しだけ、息を整える時間をあげるね。 10秒数えるから自由に呼吸して。 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 はい、息は整った? 整ってなくても、先に進めるね。 あまり時間かけるとせっかくの時間が無駄になっちゃうから。 脳が油断しているうちに、体の力を一気に抜きに行くわよ。 あぁ、大丈夫、君は楽にしてくれていれば良いの。 そう、私の言う事を聞いたまま、 何も考えず、ただゆったりする。私の言うことだけ聞きながら。 まぁ、魔法が浸透しやすくなるために、しなきゃいけないリラックスなのよ。 人間って意識が警戒していなくても、無意識は警戒してるなんてことはよくある話だからね。 そういうのは、どれだけ口で言ってもどうにかなるものじゃないわ。 だからね、上手に騙してあげる。貴方も上手に騙されてね。 はい、次の工程に行くわよ。目を閉じたまま、目を動かしましょうね。 そう、目を閉じたまま、目の運動をするの。 あ、体の力は抜いたままにして。そう、力を抜いたまま、目にだけ意識を集中するの。 目を動かす準備、出来たかな? これから、目の動く方向を指示するね。 私が右っていったら、目を右の方向へ持っていく。 左なら、左に。上なら上、下なら下という風に、とにかく方向だけいうから、それにあわせて目を動かしてね。 それじゃ、まずは……右。 (「上下左右」の方向指示の直後に1~2秒開ける) 次は、左。そのまま上……そして下。 次も右から始めようね。 そこから一回点するように下、左、上、右。 今度は反対に、左から上、右、下、左。 はい、上、下、上、下。 下で一度止まるね。 そこから右回りしよう。 下、右、上、左、下……はい、良いよ。 次も同じように下から左周り。 下、左、上、右、下……OK。目はそのまま下に向けて。 (3秒待つ) はい、目を真ん中に戻してー。 お疲れ様でした。 どうかしら? 体の緊張が、だいぶほぐれたんじゃないかな。 体の力を抜いた状態で、他の場所に集中したからね。 体はそのまま力を抜き続けて、すっかりリラックス出来てるよ。 上手に騙されてくれてありがとうね。 それじゃ、今から魔法をかけてみるね。 ここまで体の抵抗が下がっていれば、 すごく弱い魔法なら拒否反応が出ずにすぐにかかるはず。 そうだね……。うん、アレが良いかな。うん、そうしよう。 今から魔法をかけるけど、私は掛かってる本人じゃないから確認することはできないけど、 この魔法にかかると、きっと貴方にしか見えない階段が現れると思う。 それは、もちろんこの世にはないもの。だけど、貴方には見えるの。 もし見えなくても、安心して良いよ。 その時は、単純にまだこちらの準備が足りてないだけだから。 君に否はないよ。こっちの落ち度だもん。 強い魔法は、とても強い抵抗に合ってしまう。 だから、ゆっくり弱い魔法をかけていくの。 弱い魔法は、気付かないうちに貴方の心に働きかけて行くの。 だから、すぐに見えなくても、慌てないで、良いよ。 その時も、今までみたいに私のいうことを聞いてね。 こう言うことをじっと我慢して一緒にやってくれるのも、助手に求められるものなんだ。 だから頑張ってね、助手候補さん。 それじゃあ、この杖で、貴方の頭に触れるわね。 そう、額に集中して。額に、少し冷たい何かを感じない? もし感じないなら、それは、きっと魔法の初期症状ね。 手足の感覚が、消えてしまったりするの。 まるでフワフワと浮いているかのように錯覚してしまう。 それと似たような感じで、額の感覚が消えてしまっているのかもしれないわ。 でも、額にはちゃんとあるんだよ。 冷たい、杖がね。感じてみて、杖を。冷たい、気持ち良さを。 どう? 感じられた? 体はとっくに準備完了しちゃってるから、有るのに無いと感じることは普通なことだよ。 心配せずに、今は杖と、その魔力を感じ取ってみて。 杖から出る冷たい魔力が、貴方を包んでいく。 ゆっくり、全身にまとわりつくように、冷たい、冷たい魔力が全身に広がっていく。 頭から、首、胴、腰、足と、漂いながらも纏わりつく。 ほら、見えてくるはずだよ。見えてくる。 階段。深い深い、暗闇へと続く階段。 黒くて、目の前は見えないのに、階段だけではしっかりと存在している。 私は、貴方がどんな階段を見ているかは知らない。 けど、階段を貴方が見ていることはわかる。 だって、その階段を見せているのは私だもの。 大丈夫だよ、ちゃんと魔法にかかれてる。 まだ浅いけれど、確かにかかっている。 さぁ……階段を一歩ずつ降りていこう。 私が数を数え始めると、貴方の足は勝手に階段を降りていく。 ゆっくり、奥へ奥へ進んで行くの。 (2秒間隔でカウント) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (5秒待つ) 階段を降りて、まだ意識ははっきししてる? それとも、深い深い場所へ来た事で、頭の中にモヤが出来てきた? 階段を降りるということは、貴方の意識がゆっくり沈んでいるということなの。 だから、階段を降りれば降りるほど、貴方の意識はゆっくり深い深い闇の中へと落ちていく。 そして、無意識が表に出てくる。 もうだいぶ、私の声を素直に受け入れられるようになったんじゃないかな? そうでもない? 本当にそうかな……? 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 ……ふふ、階段、降りちゃったね? 何がおかしいのかって? 簡単なことなの。 私はね、別に階段を降りろなんて言ってないよ。 私はこういったんだよ。 「私が数を数え始めたら、貴方の足は勝手に階段を降りていく」ってね。 やったね。おめでとう。 貴方は私の魔法にかかったんだよ。 そう、魔法にかかれたの。良かったね。 私の言葉に、素直に従える子になれたんだね。ふふ。 だってそうでしょう? 君は自分の意志で降りているように思っていたのかもしれないけど、実際は私の命令に素直に従っていただけなんだから。 とっても上手に魔法にかかれて、偉いね。 ちなみに、かけていた魔法はとっても簡単な魔法。 私のいうことに逆らえなくなる魔法、だったんだ。ただし、とっても弱いものだけどね。 こんなに弱い魔法にかかれるんだもん。 君は間違いなく素質があると思うよ。 魔法使いは、同じくらい魔法の干渉を受けやすいからね。 だから、とっても優秀な魔法使いに、なれるかもね? そうだね……君、私の助手希望だったのよね。 こんなに魔法にかかりやすいのだから、助手には…………してあげない。残念だったね。 えへ、実はね、私、君のことが気に入っちゃったみたい。 助手なんて、そんなのもったいないよ。 四六時中、私と一緒にいて……私と寝起きを共にする…………ペットにしてあげるね。 そう、ペット。不服かな? でも、貴方の体はそういってないみたいよ? だって、こんなに弱い魔法なのに、掛かりっぱなしなんだもん。 この魔法はね、本人の強い意志があれば破れるものなんだよ? それに、嫌なことはちゃんと拒否できる魔法なの。 けど、未だに解けないってことは……うふふ、何処かで望んじゃってるんだよ。 何をって……私のペットになることをだよ。 もちろん、私が言い出したことだもん、良いよ。ペットにしてあげる。 このまま弱い魔法で、たっぷり気持ち良くさせて……可愛くもだえるワンちゃんにしてあげるね。 さ、ワンちゃん。躾けの時間だよ。