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■01 ……私は登校に電車を使っています。 駅まではお母さんに車で送ってもらって、それから電車で30分ほど。 学校は駅を降りてすぐのところにある、近隣では有名な私立校。 何が有名なのかというと、ちょっとお金のかかる所や、有名人や有名人の子供が通っていたりする所。 それと、制服が可愛い所……私も、この可愛い制服はとても気に入っています。 目立つ制服のせいでしょうか、学校でもよく注意が促されます。 寄り道はしないようにとか、町中で声をかけられてもついて行かないようにとか……痴漢に気をつけなさい、とか。 でも、私には分かりません。どのように注意すればいいのでしょう。 どう注意していれば、痴漢に遭わずに済むのでしょう……注意していても、さわられてしまうのです。今も、お尻を。 数日前から、登校する時も下校する時もお尻をさわられるようになりました。 最初はカバンが当たってるだけだと思ったり、人と擦れているだけだと思っていました……でも、違いました。 今、お尻に触れているのは明らかに男の人の手です。 お父さんと同じくらい大きな手が、スカートの上からですが、お尻を撫で回しているのです。 右のお尻を、左のお尻を、順々に……。 不思議なことに、手だと分かった瞬間、痴漢だと分かった瞬間から、一気に寒気を覚えるようになりました。 それまでは擦れているだけだと思っていたのに……それは恐怖なのでしょう。 知ってしまったことで恐怖を覚えてしまう。 知らなければ怖くはなかったのに……でももう、知らぬフリはできないのです。 きっと痴漢も、私が気付いたことを悟っているのでしょう。 それでも痴漢はさわるのをやめず、むしろ堂々とするようになってきました。 何度も声を出そうと思ったのですが、口は開けど声は出ませんでした……きっと恐怖で萎縮しているのでしょう。 今のところこの痴漢は私が1人でいる時にしかさわってきませんし、駅に着いてしまえばホームまで追いかけてくることはありません。 それに、ただお尻を撫でられているだけ……。 登校時は途中の駅で友達と合流することがあり、そうなればいなくなります。 下校時も途中までは友達がいるので、1人になるまではさわってきません……だからなるべく1人にならないよう。 友達に頼んで、なるべく登下校を一緒にしてもらうようにしています。 でも、その子にも痴漢されていることは恥ずかしくて言えません。 友達にも言えないのだから、悲鳴を上げるなんて……。 見ず知らずの大勢の人たちに、私は痴漢されています、なんて恥ずかしいこと、私はとても言えないのです……きっと痴漢は、そのことにも気付いているのだと思います、だから……。 だから、今も1人でいる私のお尻を執拗に撫で回しているのだと思います。 ゾワゾワとした怖気と嫌悪感が体中を這い回って、ため息ばかりが漏れ出します。 こんなことをして何が楽しいのでしょうか。 どうして私が、こんな恐怖を覚えながら登下校しなければならないのでしょうか……頑張って入った大好きな学校なのに、毎日が憂鬱で仕方ありません……私に、もっと勇気があれば。

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