プロローグ 肉箱様に入る決意
私の地元には肉箱様の社がある
そこに祀られている肉箱様は、地元の人々が時代を越えて大切に守ってきた
地域の守り神
肉箱様の見た目はまさに大きな肉の塊
毎日たくさん食べ、たくさん出す
食べるという表現が厳密に正しいかどうか
それはわからない
ただ、昔からそうだったというだけ
大きさから言うと
口と呼ばれている部位は
建物の入り口のようであるし
肛門と呼ばれている部位は
無臭のドロが湧き出る池なのだ
そう、肉箱様の排泄物は無臭
ただ過去に強烈な悪臭を放ったことが稀にあると聞いているが
なぜそうなったのか
原因は不明
ちなみに味は無味らしい
過ぎ去りし日々の勇者に敬礼
とにかく
肉箱様には、1日1回
時間は正午
人間が食べられるものだけを食べさせる
量は60キロ
これが掟
60キロというのは米一俵分の重さが由来といわれているが
あくまでもそうだったんじゃないかと言う程度の根拠で
今となっては真偽のほどは不明
この村に住んでいるすべての年寄りに聞いても
昔からそうだった、という答えしか返ってこない
私には、母がいない
私を置いて消えてしまった
そのことについて覚えているのは
私は母に手を引かれて肉箱様の中に入っていったこと
今思えば、無理心中
結果どうなったか?
私だけが戻って来た
肉箱様の中でなにが起こったのか
全く覚えていない
その時、私を保護した人の話によれば
肉箱様の前でへたり込んでいた私は
全裸のまま茫然自失状態だったという
村人は母の骨や遺留品が排泄されないことに疑問を持ち
私がいくら訴えても
母と一緒に肉箱様の中に入ったという話を信じなかった
それに、仮に中に入ったとして、体力に劣る私が一人で出てくるのは客観的に見て不自然だったし
肉箱様はそれまでに一度たりとも嘔吐したことなどなかった
かくして、金銭問題を抱えていた母は私を置いて蒸発
私はほぼ時を同じくして逮捕された性犯罪者の男に
いたずらされた被害者と言うことになってしまった
今に思えば
古から伝わる肉箱様を守りたいという
住民たちの気持ちが先行したのだろう
それからいくらか時は流れ
今日
私は決めた
自ら肉箱様の中へ入って真相を確かめる
あの中で、なにが起こったのか
母はどうなったのか
なにか、思い出せそうで、やっぱり思い出せない
あの日から今日まで、肉箱様を見るたびに
なんとも言えないストレスを感じてきた
終止符を打ちたい