Track 1

導入

(SE:ベル音) あ、ようこそ、いらっしゃいませー。歓迎するね。 えっと、お客様は~、ここに来たのは初めて……ですよね? うん、そうですよね。良かったー、合ってました~。 覚えてなかったとかだったら、失礼ですもんね。 それじゃあ、この場所について、説明した方が良いですか? あ、なるほど、仲間の人にここを勧めてもらったんですか。 えへへ、なんだかとっても嬉しいです。 それじゃあ、詳しい説明も、ちゃんと私がしますから、安心して下さいね~。 実際の診察は奥の部屋でしますから、その二番目の扉にあるベッドに横になっててもらえます? あ、重たい鎧とか、武器とかは奥のお部屋に備え付けてある籠の中に入れてもらえば大丈夫なので。 本格的な治療は、身軽でゆったりとした服装でしてもらいますから、今のうちに準備しておいて下さい。 何でしたら、今下に着てるお洋服がピッチリした物でしたら、こっちで専用のお洋服を用意出来ますけど…、どうしますかー? ……大丈夫? 了解しました。 では、さっき言った通り、中で準備をして、待っていてもらえますか? 一応簡単に準備が必要ですから、ね? それまでに、衣服を整えて、横になって待っていて下さい。 (15秒待つ) よいしょっと。ごめんなさいね、少しだけ準備に手間取っちゃって。それじゃあ、改めて説明に入りまーす。 えっとですね、ここは、日頃戦場やお仕事とかでとっても疲れてる人を、 体の奥から、心の底から癒やしてあげるための施設なんです。そう、体の奥から、心の底から。 特に、戦場で戦ってる人の多くは、毎日を簡単にケアルとかで適当に直して、すぐに戦場に戻ったりしますけど、 本当はそれじゃあダメなんですよ? お客様も、その類いの人でしょ? それだけじゃ、本当の意味で回復はしてないんですよ? 知ってました? それで、そういう風に戦場で疲れてたり、日頃のお仕事で神経を磨り減らした人達に、本当の回復魔法をかけてあげるのが、この施設の重要なお仕事なんですよ。 見えない所の疲労をちゃんと取って、そしてメンタルケアもしっかりしちゃう。 そして、再びお仕事をするための活力を得る場所、そこがこの施設の役割というわけです。 きっと、お客様は、仲間の人から見て凄く疲れてるように見えたんですよ。 こういうメンタルケアの治療は手遅れになる前にしないと意味ないですからね。 うんうん、良い友人を持ちましたねー。 (少しボソボソ声で) まぁ、それだけじゃないかもしれないですけどー。 ん? ううん、こっちの話ー。何でもないですよ-。なんでもなーい。 ほら、私のことは置いといて、治療、始めましょう? 今まで、こういう施設のお世話になったこと、ないんですよね? だったら、日頃大丈夫だと思っていても、きっと体の芯の部分は疲れてるはず。 そういった疲れを綺麗さっぱり、取り切って、元気になる。 そんな不思議な魔法をかけてあげますから、ね? 不安がらずに、力を抜いてリラックスして下さい。それじゃあ、本格的に始めますよ。 そうですね。最初は、体の力を抜くことから始めましょうか。 そうじゃないと、本当の意味で魔法に深くかかることは出来ないですからね-。 ええ、実はそうなんですよ。 あまり知られてないですけど、外傷じゃない、精神にまで魔法を浸透させる場合には、かかる側の協力が必要なんです。 お客様が、積極的に魔法にかかりやすく努力しなきゃいけないんですよ。 でも、言われてもすぐにはわからないですよね? 私がするのは、そのためのちょっとしたお手伝い。体に元々ある、潜在的な能力を、ちょっとだけ意識的に浮上させるだけのもの。 そして、そんな自分の奥深くにある物を取り出せるのは、もちろん自分だけ、だよね? そう、自分だけ。貴方だけなんです。疲れた自分を癒やしたいと思う、貴方の心が、体の奥に魔法を届けるの。 大丈夫、やり方は私が誘導しますから、ね? 私と一緒に、二人で、体の奥底を、隅々まで探って行きましょうね。 体の奥底へは、段階的に行きましょう。だからまずは、深呼吸。そう、深呼吸をしましょう 深く深く息を吸って、深く深く吐き出すだけ。とっても簡単ですねー。 そう、とっても簡単です。でも、よーく考えてみると、呼吸はちゃんと体の奥にまで届いてます。 体の奥までいって、体の調子を整えてくれる。それが呼吸。 でも、意識すれば、いつもよりずっと奥まで、深く深く呼吸できます。そうですよね? だから、呼吸する時は、ちゃんと強く意識しながらやってみましょうねー。 はい、それじゃあ、深く息を吸って-。吐いてー。 ……どうですか? 奥まで、ちゃんと届きました? 胸がぐーっと押し出されるくらい、息は吸えました? 最初は難しいかもしれない。でも、すぐに慣れますから、どんどんしていきましょう。 ぐーっと息を吸って-。吸って-。吸ってー……。 はい、ゆっくり吐く-。ふっー。体の奥底に届いた空気が、悪い物を取り除いてくれています。 じゃなきゃ、こんなに落ち着く訳が、ないですもんね。 吸ってー、吸ってー……はい、吐いて-。 悪い物が取り除かれていく。呼吸することで、取り除かれていく。 じゃなきゃ、こんなに気持ち良いわけがない。そうですよね? だから、もっと意識的に、しっかりと、深呼吸をする。 悪い物を取り除くために……。 はい、吸って-、吸ってー吸ってー……ふーっと吐くー。 吐く時も、奥の悪い物を掻きだすように、吐きましょう。 肺の奥から、絞り出すように。お腹をへこませるように、はき出す。 はい、吸ってー……ゆっくり、ゆっくり吸ってー……。 そして、ゆっくり、ゆっくり吐く-。ふーって、時間をかけて、体から息を抜いていく-。 そうするとね、不思議と、体がリラックスする。体が落ち着く……。不思議と、落ち着く……。 あれ? 不思議じゃなかったかも? だって、悪い物が抜けたんだもんね。 体から、悪い物が抜けると、力が抜けて、リラックスできる。不思議じゃなかったね。当たり前のこと。 うん、呼吸は充分。 楽な形で息をしてもいいですし、さっきみたいな呼吸をし続けて、気持ち良くなっても、大丈夫。 どっちにしても、力はだいぶ抜けて来てるから、安心して下さいねー。 そう、力が抜けて来てる。だからね、ほんの少しだけ、貴方は魔法にかかりやすくなってる。 その証拠に、体がほんの少しだけ、暖かくなっていないかな?  なってるよね? 何処でも良いよ。人によって、暖かくなり始める場所は違うから。 腕からって人もいれば、足の先っていう人もいるの。ふわふわして、暖かい気持ちになる。 それと同じくらい、体がポカポカしてくる。ふわふわで、ポカポカして、落ち着くの。 なんでだと思う? それはね……リラックス、できてるからだよ。そう、リラックスできてるから。 悪い物が抜けて、君が、私の言うとおりに動いてくれたから、ふわふわして、落ち着くの。 私の誘導に従って、上手にここまで来たから、とっても気持ち良いんだよ……。 体が暖かい。ぽかぽかする。そのたびに、真っ白な光に、包まれてるよ。 そう、真っ白な光。優しい光……。暖かい場所に、満ちていく。 視界が、真っ白になっていく。暖かい光に包まれて、気持ち良い。 この光は、何だろう。どうして、こんなに気持ち良いの? ……これはね、白魔術の光。回復魔法の、暖かい光。それが、貴方の体を包み込んでる。 暖かい光……まばゆい光が全身を包み込む。暖かくて、気持ち良い。 普段貴方が体験してる光とはまったく違う、体の奥へと向かう光だよ。 積極的に悪い部分を見つけて癒やしてくれる。癒やされちゃう。そんな光。 ほら、感じて? 今、その光が、君の腕へと染み込んでいく。 まばゆい光が、君の悪い物を取り除いてるよー。 普段わからない、悪い物を、奥の奥まで探って、取り除いてる。 そうすると、体の力が抜けてくる。特に、集中的に白魔術がかかってる、腕の力が抜けていく。 想像してみて、優しい光が、君の腕を満たしていく。白い、優しい光。暖かいのに、どこかまばゆい光。 それがゆっくり、体の悪い所を治していくの。 指先から、ちょっとずつ上がっていく。ゆっくり、ゆっくり悪い物を探してるよ。 次は手の甲……手首……そこから、どんどんゆっくりいって、肘……。 最後には、肩。これで、君の腕から悪い物はなくなったね。 だから、腕の力が抜ける。動かない。それに、動かそうとも思わない。 今の状態が気持ち良いから、動かしたくない。 ……ねぇ、感じる? 腕、少しぴりぴりしてるの。 魔力の残滓が残っていて……それが刺激になって、少しぴりぴり痺れてる。 こそばゆい刺激。普段なら、気にならないレベルの刺激。 それなのに、動けな今は、その小さな刺激に、凄く感じちゃうね。 もっと、この感覚を味わいたくなる。腕だけじゃない。足先で、太ももで……お腹、背中も。 もちろん、頭でだって、感じたい。そうだよね? それじゃあ、また私の言う通りに感じようね。 私の声で、言葉で、君は誘導されるの。従っちゃう。 私の言うがままに動く……。そうすると、とっても気持ち良くなれるから。 さぁ、意識をつま先に移そうね。ほら、また、暖かい光がつま先から上ってくるよ。 とっても暖かい。光が通ると、悪い物が取り除かれて、真っ白になる。 そう、真っ白になるの。ゆっくり、光が体に染み込んで、真っ白になっていく……。 つま先から、くるぶしを通って、足首……ふくらはぎ……膝。 ゆっくりゆっくり、真っ白になっていく。体全体が、白魔術で満たされていく。 ほら、太ももを、ゆっくり浸食していってるよ。 そのまま、上半身に、いっちゃおうね~。 ほら、腰が甘く甘く痺れる。奥の奥から癒やされてる。ふわふわして、夢心地。 ……ここで、ちょっと深呼吸してみようかー。 はい、吸ってー……ゆっくり吸って、白魔術を感じてみて? お腹から、胸が、ぐーっと伸びる。そこに、暖かい光が入り込む……。 そう、一気に上って来ちゃったよ。どう、びっくりするくらい気持ち良いでしょう? これはリラックスするための深呼吸じゃないからね。 気持ち良く、体に白魔術を染み込ませる呼吸なの。 えへへ、上手にできて偉かったねー。すっかり、誘導されるのが癖になっちゃってるよ。 上手に気持ち良くなる方法が、体に染みついて来た証拠だね。 ほら、光が、首元まで来てるよ。これから、君の頭を真っ白にしちゃう光。 今まで感じてきた、真っ白くなる感覚なんて、目じゃないんだから。 気持ち良くなって、視界が一面白くなって……完全に落ちちゃうの。 快楽に、落ちちゃうよ。 どうしようもなく気持ち良くなって、頭真っ白になって、訳がわからなくなっちゃうの。 気持ち良いよーって、頭がパンクしちゃうの。 でも、大丈夫。だって、気持ち良くなって訳がわからなくても、私がいるもんね。 今までだって、どうやったら魔法がかかりやすくなるのかなんてわからないのに、 私に誘導されたら、とっても簡単に気持ち良くなれたよね? そう、なれた。だから、意識がもっと小さく小さくなっても、大丈夫。 ぜーんぶ、私が誘導してあげるからね。 気持ち良くて、気持ち良くて……訳がわからなくなる。だから、全部私に委ねる。 もっと深く委ねる。何も難しくないよね。今まで通り、私の声を、言葉を聞けばいい。 そして、上手に私の言ったとおりにすれば、これより深い気持ち良さが、約束されてるんだよ。 それじゃあ、深い深い世界に落ちようね-。 3,2,1で、君の頭は真っ白になる。白魔術の光に包まれて、幸せのまま、何も考えられなくなる。 行くね。はい、3,2,1……ゼロ。 (20秒待つ)