深化
白い、白い世界に、今君はいる。真っ白な世界。
上下左右、真っ白。中央に、浮かんでるのが、君。そう、浮かんでいるの。
ふわふわと、真っ白い世界で浮かんでいる。
ふわふわ。ふわふわ。自分が上になってるのか、下になっているのか……わからない。
でも、不思議と不安な気持ちはない。そうだよね?
安心してる。動けなくて、姿勢も不安定なのに、とってもリラックスしてるよね。
どうしてかな?
……そう、私がいるから、だよね。私の声が、言葉が聞こえてるから。
私が、君を導いてくれてるから、だから全部任せても大丈夫。安心。
……真っ白な世界。ゆっくりと、ここを癒やしの空間に変えてみようか。
そう、癒やしの空間。落ち着いて、体を休めている君が、さらに癒やされる場所。
……草原、なんてどうかな? とっても癒やされそうだよね。
特に、日頃良く行く場所でもありそうだしね。きっと、イメージしやすいよ。
それじゃあ、一つ一つ、草原に近づいてみようね。
草原で、一番最初に感じるのは……濃い草の香り。
光を浴びて力強く伸びる草木の香り。とっても良い香りだよね。
それに混じって、甘い花の香りもする。君は今、そういった草木に囲まれてるんだよ。
寝そべっているのは草むらのベッド。地面も、不思議と固くなくて、むしろ寝心地が良いくらい。
思わずお昼寝してしまいそうな、心地良い陽気が、君を包み込んでいる。
まばゆい光で、視界が少しまぶしいくらい……。でも、決して不快じゃない。
外に出た時、特有の気持ち良さ……独特な香り。草原で、寝そべるのって、とっても気持ちいいよね。
鼻で呼吸するたびに、生命の香りが、鼻腔をくすぐる……。
草木には、人の心を癒やしてくれる作用があるの。
ふわふわのベッド。軽く風が、君を揺さぶる。ゆらゆらー、ゆらゆらー……。
ゆらゆらー、ゆらゆらー……。どんどん、揺れていく。左右に揺れる。
揺れるたびに、草木の香りが、体に染み込んでいく。
青葉の香り……そんな世界に、落ちていく、落ちていく……。
ふわふわな世界に、落ちていく、落ちていく。
何もせずに、漂う。風に任せて、ゆらゆら揺れて、草原を飛び回る。
草木のベッドに乗ったまま……柔らかい草に乗ったま、空を飛んでいる。
まばゆい光へと近づいていく。青葉の香りが、強くなっていく。
さわやかな香り、それに、酔いしれながら、リラックス。リラックス……。
そして、気持ち良くなるたびに、空に落ちていく。まばゆい光に落ちていく。
落ちる、落ちる、落ちる……空に落ちる。落ちていく―――。
……これから、カウントを開始するね。ゼロって言われると、君の意識は、最初の真っ白な世界へと、戻ってくる。
でも、ここで得た気持ち良さは、そのまま。安らぎも、そのままだから、安心してね。
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
ゼロ
(20秒待つ)
おかえり。草原は気持ち良かった? とっても不思議な世界だったみたいだね。
でも、とっても気持ち良くて、良い香りがして……リラックス、出来たみたいだね。
良かった。それじゃあ今度は、また違った場所に行ってみようか。
こうやって、色々な場所にいって体を癒やして活力を得ようね。
すればするほど、癖になる。私の言葉が、現実味を帯びて、支配的になっていくの。
そうすれば、もっともっと気持ち良くなる。もっともっと、深い深い場所に落ちていく。
深い場所。落ちれば落ちるほど、気持ち良い。まばゆい光に、落ちていく。
ね、素敵でしょ? だから、素直に従って欲しいなぁ……。
良いよね?
……えへへ、嬉しいな。それじゃあ、また、この世界から別の場所にいってみようね。
今度は、どんな所に行くのかな……?
次は……もっと非現実的なところがいいね。
非現実的で、ただ単純に気持ち良いとだけ感じる世界……。
それも落ち着く気持ち良さじゃない。それとは違う快楽。
……そう、快楽、官能的な、気持ち良さを感じる世界。
不思議な世界。そんな場所に、行ってみようね。