01_誘導
//■1.誘導
「お兄ちゃん。ちょっといい?」
「って、あれ、なに聞いてるの?」
「うっわー、えっちなのでしょ、それ。……隠しても遅いよー、もう見ちゃったしー」
「……催眠CD? なにお兄ちゃんそういうの好きなの? もしかして私に催眠術かけて、えっちなことしたいって、こっそり練習?」
「あはは、わかってるって、そういうのじゃないもんね。知ってるよ、自分が催眠に入って、気持ちよくなるんだよね?」
「そうじゃなかったら怒るよ。お兄ちゃんがえっちなのは仕方がないけどさ、私、妹なんだし、そういうのは……困る……」
「で、これって、あれだよね、聞いてるだけで催眠に入っちゃうっていう音声」
「へえ、マニュアルあるんだ」
「『仰向けになって、楽な姿勢で聞いてください。体の力が抜けて、だら~んってなっても大丈夫なように』……ふうん……」
「『また、車の運転中に聞くことは、危険ですので絶対におやめください』」
「『聞いているうちに、だんだん気持ちよくなってきて、恥ずかしい声が出たり、恥ずかしいことになってしまうこともあります。ご家族や他の人に邪魔をされることがないような、安心できる状況でご試聴ください』」
「ふふっ、なんか、えっちだよね。お兄ちゃんも、これ聞いてたら、そうなっちゃうの? もう試したことあるんだよね? 前の時はどうだった?」
「ええと、今みたいに、横になって、目を閉じて、体を楽にしてから聞き始めるんだよね?」
「椅子に座ったままだと、途中で、力が抜けて、ガクンって落ちてしまうこともあるって聞いたよ」
「それわかるよね、退屈な授業聞いてる時とか、電車で帰る時なんか、すごーく眠たくなって、ぼーっとしてたら、いきなりガクッてなることあるよね。あれ、びっくりするけど、そうなる前の、あのぼーっとしてるのって、気持ちいいよね……」
「じゃあ、仰向けになってるときに、ガクンって落ちたら、どうなるのかな。スゥーッて落っこちていくみたいになるのかな」
「聞いたことあるよ。3、2、1……ってカウントダウンしていったら、ゼロで体の力が一気に抜けて、あなたは深~いところに入っていきます……って言われて、ゼロってカウントされたら、体の力を抜いて楽にしていたのに、もっと沈んでいくんだよね、気持ちよく、深く、深く……」
「じゃあ、私が数えても、そうなるのかな……」
「やってみてもいい?」
「…………冗談だよ。そんな、ドキドキしないで。期待した顔しないでよ」
「落ちついてよ、お兄ちゃん。まずは深呼吸して。深呼吸。まぶたの力を抜いて、いっぱい吸って…………全部吐いて。そう、もう一回…………ゆっくり、ゆっくり、繰り返して、落ちついて…………」
「……落ちついてきたね。でも、まだ、緊張が残ってるね。じゃあ、お兄ちゃん、今から、思いっきり息を吸って、止めてね」
「私が3からゼロまで数えるから、ゼロで息を吐き出すの。全部吐いて、空っぽにするの。そうするとすごーく落ちつくんだよ」
「じゃあいくよ……いっぱい、息を吸ってぇ…………止めて。まだ止めて。カウントしたら、息を吐いてね……3、2、1、ゼロ。ふぅぅぅぅぅ……」
「…………力、抜けていくよね。普通に力を抜くより、ずっと深く、リラックスできる」
「今はもう、普通に、穏やかに呼吸してるよね。それを、もう一回…………吸ってぇ……もっと吸って。限界まで吸って、止めて。止めるの。お兄ちゃん、息止めて。3、2、1……ゼロ」
「……力が、一気に抜けていって……すごく気持ちいい……」
「…………また吸ってぇ…………止めて。…………3、2……1……ゼロ」
「……力が抜ける……もっと、抜けていく……」
「もう一回……吸ってぇ…………いっぱい吸って……止めて。今度は5からゼロまで数えるよ。3からよりも、もっと深く力が抜ける。5、4、3、2、1……ゼロ」
(ささやき声で、早めに)
「落ちる、落ちる、落ちる、落ちる、落ちていく……気持ちよく、深いところへ落ちていく……」
「……お兄ちゃんは、もう、落ちることをおぼえました。3、2、1……ゼロ。……ほら、数えられるだけで力が抜けちゃう」
「何を考えていても、抵抗しようとしても、どんなことをしていても、ゼロで、すと~んと落ちてしまう。3、2、1、ゼロ。ほら」
「落ちれば落ちるほど、深く、気持ちよくなっていくよ。だから何度も何度も、落ちていってしまうの。3、2、1、ゼロ」
「……3……2……1……ゼロ。落ちる……」
「…………もっと、深く、落ちる…………5。4。……3……2……」
「……落ちたいよね? お兄ちゃんは、深く、もっと深く、どこまでも気持ちよくなりたいよね?」
「だから、落ちるの……ゼロで、深く、深く……一番深いところまで、気持ちよく、入っていけるの……3、2、1……」
「……ああ、落ちそう……でもね、次に落ちたら、お兄ちゃんは、私のものになっちゃうの」
「今よりもっと深く、お兄ちゃんの中に、私の声が響くようになるの。私の言うとおりになるの。次に落ちたら、本当に、そうなっちゃうからね……」
//■合わせ
「10……9……8……7……6……5……4……3……2…………1…………」
//■合わせ 前のカウントダウンと重ねる。
(ささやき声で。カウントに合わせてひとつひとつ言っていくイメージで。最後の『落ちる』が2と1の間に入るように)
「もう止まらない。落ちていく……落ちる、深く、落ちる……そう、深く、一気に…………落ちる……」
「ゼロ」