01.タブレット少女 上
「んーっ………やっと帰れる……塾、長いよぉ
受験前だから仕方ないけどさ………お母さん呼んで、早く帰ろーっと
…あ、そうだ。お母さん、先週からパート始めたんだった………私の大学の資金のために。……頭が上がらないなあ」
「うん、歩いて帰ろう。早くかえって、ゆっくりしよう」
歩く音
(……なんだろ、何か、視線を感じるような………?
………気のせいだとは思うけど、夜だし、何だか怖いから……走って帰ろう)
走る音
それから、ぶつかる音
「あっ……! あ、す、すいません、ごめんなさい。急いでて、前見てなくて――あ……タ、タブレットが、割れ、て……貴方の、ですよね………こ、こんなに大きな……」
(こ、これ、いくらするんだろう………十万円、は、軽くいくよね)
「え、あ……お、お話を。は、はい。近くに、家があるんですね………分かりました」
(どうしよう……あんなに苦労かけてるのに、こんな、高いものの弁償なんて……………)
全体的におびえた感じで
(う……お弁当の容器とかが散らかってて、あんまりきれいじゃないお部屋……)
「あ、ここに、こしかけるんですね。はい、ありがとうございます……それで、あの……タ、タブレットは……あ、も、もちろん、弁償させていただきます! はい! そ、その……おいくらくらい、なんでしょうか……?
え……!!」
(さ、三十万円だなんて、はらえるわけ、ないよ……! ど、どうしよう……)
「両親の連絡先、ですか……? それはその、えっと、わかります、けど……
ご、ごめんなさい! 実は私のおうち、あんまり裕福じゃなくて……! お父さんも、私が幼いころにどこかにいっちゃったみたいで、お母さんががんばってくれてるんです……私の大学の資金のために、今日も働いてくれてて……で、ですから……ふ、踏み倒す気はありません! ですから、少しだけ、まっていただけない、かと……お願いします!」
「……え? 『恋人や親友ならともかく、あかの他人にそんなことできるハズがない』、ですか……?
そ、それはそう、でしょうけど……え?
『き、きみが恋人だったならともかく、もう三十で無職のぼくとつきあうハズもないしね』、って……まさか」
(ま、まさかこれって、付き合え、って、こと……? う、うそ……確かにタブレットは壊しちゃったけど、だってこの人、見た目が不潔そうだし、顔も、その、かっこよく、ないし、喋り方もどもってて、聞こえづらくて、だから何度も聞き返さないといけないし……へ、部屋も汚くて、それに、無職だなんて……
しかも、よく見たら、私の胸ばっかり見てきて……人よりはちょっと大きいけど、私、まだ誰にも見せたことないし……!)
「お、お願いします……! 何とか、待ってください……!
ど、どならないでください、待って、待ってください……!」
(い、いやだけど……お母さん、がんばってるし、そんな、三十万円なんて、はらえっこない!
わ、わたし…………)
「………………あ、あの……いえ、待ってもらうお願い、では、なくて…………その……つ、きあって、ください……
わ、わたしと…………つきあって、ください…………
え……? い、いやだ、って、どうしてですか!?」
(うそ……!? 自分からあんな、告白させるように仕向けさせておいて……!!)
『お金を払いたくないがために言ってるようにしか見えない』って、ち、ちがいます。私、その…………本当に、あなたと付き合いたいんです……ひ、ひとめぼれ、なんです
え、『それに、好みのタイプじゃない』ですか……? こ、このみのタイプって、どんな……
『……せ、扇情的で、情熱的で、自分のことをご主人さまと呼んで……好きになった相手には、自分から胸を見てもらうように懇願したり……自分から、しゃ、しゃぶらせてくださいって、いったり……!? 望んで、は、はめどりをするような子だから、君には無理だろう』って……!?」
(な、なにそれ、そんなの無理に決まってる……! 人の弱みにつけこんで、そんなことをさせようっていうの……!? なんて最低な人……!)
「え、携帯出せって、あっ! まっ、まってください、お母さんには、連絡しないでください! 待って! やります!
え……や、やります……やらせて、ください……うまく、できないかもしれないですけど、やらせてください、お願いします……」