Track 1

①いつもの夏の始まり

--------------------------------------------------- ①いつもの夏の始まり --------------------------------------------------- ――今年も夏がやってきた…と、みんな口を揃えて言う…… 暑さで半そでになったり、蝉の声が聞こえ始めたり…… 扇風機を物置から引っ張りだしたり、いつの間にか風鈴が縁側に居ついていたり…… 普通の人はそういう『一般的な夏の風物詩』で感じるんだろうけど……私の場合は少し違う もうすぐ、私だけの特別な、『夏』を象徴する男の子がやってくる…… 彼に会うまでは、夏が訪れた気がしない いつも私に笑顔を向けてくれて、甘えてくれて…… 一緒にいるだけで元気になれる、不思議な子…… そんなことを考えていると、玄関の戸を勢い良く開ける音が、ここまで届いた 従弟の塔也の元気な挨拶が聞こえる…… それに遅れる形で、おばあちゃんが出迎える声がした そして私の居場所を聞き、家に上がるや否や、軽快な足音が一直線にこちらに向かってくる 【美崎】 「いらっしゃい、今年はなにして遊ぼっか?」 彼と言葉を交わしたことで…… 私は人より遅く、今年も夏がやってきたことを実感した