風鈴館へようこそ
■パート1
いらっしゃいませ。
こんな夜分遅くにお客さんだなんて、珍しい。
……そうでしたか、あなたもどこかで、この宿の事を知って、ここまで来て下さったお客様なんですね。
風鈴館へようこそ。
はじめてのご利用ですよね? ……はい、かしこまりました。ありがとうございます。
ではこちらに記帳をお願いしますね。
私が本日最後の受付番なので、受付を閉めさせてしまいますね。
これでよし、と……。お待たせしました、お客様。
受付番はお客様が来る毎に交代するのが、ここ風鈴館のルールなんですよ。
私が今日最後の受付番だったので、今日の受付はここでおしまいです。
危なかったですよ? こんな夜遅くにいらっしゃるなんて……。
ここは田舎でも辺鄙な所ですから、泊まれる場所は他にはありませんし……。
もし、あなたがもう少しここに着くのが遅かったら……その辺りで野宿だったかもしれませんね。ふふふ……、なんてね。
では……さっそくですがご案内させて頂きますね。……お靴をお預かりします。
そこの木の靴箱へ入れておきますね。……はい。イー七(いのなな)番です。この木札がカギ代わりになります。どうぞ。
無くさないように、大事に仕舞っていてくださいね。
さぁ、本日最後のお客様である、あなた様を……私がご案内させていただきます。
お客様、私の手を握って下さい。……ここの宿は見た目でも分かりますが古い建物です。
急な段差などもありますし、足元が少し暗いですので躓かれては大変です。気を付けてください。
大丈夫、私がしっかりとあなたの手を繋いでおります……。ゆっくり、私の後についてきてくださいね。
「ここの床軋んで音が大きいので、なるべく静かに歩いてくださいね」
「ありがとうございます」
はい、この部屋です、到着いたしました。どうぞお入りください。
ここのお布団の上で横になって、目を閉じて少しお待ちになってくださいね。
……ありがとうございます。
私は……準備をさせていただきますので、お待ちくださいませ……。
準備が整いました。どうですか? 部屋の中に心地よいそよ風に乗って虫の小さな声が聞こえてきませんか?
……聞こえてきましたか。 目を閉じていると周りの音がよく聞こえるでしょう?
初めてのお客様にはぜひ聞いて欲しと思っていました。
虫の鳴く音、やさしい風の音、よーく耳を澄ませば小さいカエルさんの鳴き声なんかも……多くの音色が自然と聞こえてきます。ここはそんな場所なんですよ。
くすっ……、実はここ……、私の部屋でもあるんですよ。
自室として使っていて、ここで寝泊まりもしています。
風通しもよくて、風情も感じられるので、お気に入りの場所なんですよ。
空室のときにこんないい部屋を使わないなんてもったいないですからね。
なので、あなたにもそのおすそわけをしてあげたいなと思いまして……。
そう……、今はこの部屋にはあなたと、私、ふたりだけ……。
自己紹介がまだでしたね。申し遅れました、私は「ゆず」と申します。
風鈴館へいらして下さったお客様に、私なりに精いっぱい癒しを提供させて頂いています。
日頃の疲れをここで癒していってくだされば幸いです。
どうぞゆっくりと、おくつろぎになってくださいね。