Track 2

お耳のお掃除

■パート2 初めてのお客様だと、ここに来られるまで大変だったでしょう? 田舎ですし、初めてですと迷子になられる方も少なくないという風に聞いております。 近くの村から徒歩で数十分ほどかかりますし……、道も悪く車も使えませんし。 いらっしゃるお客様は、夕暮れ時から日が沈みきる頃に来られる方が多いので、暗がりの中を恐々と来られるとか……。 街灯の少ない道を一人で歩き回るのは誰でも怖いですし……不安になるのもわかります。 暗がりの夜道は誰だって怖いですよね。もちろん私だって怖いですよ。えへへ……。 でも、そんな怖い思いをしてまで来て下さったお客様には、ここ風鈴館で、身も心も癒されていって欲しいと私は思っております。 それで、人が不安になったり、心配してしまっていたりしている時、心が弱っている時って、紛らわせる方法は、何が一番いいか御存じですか?  ふふふ、それはですね……人のぬくもりを、肌で感じる事、人と触れ合う事ですよ。 ……あら、肌の触れ合いというのは、いやらしい意味だと思われました? もちろんそれもひとつの方法ですが……、それだけではないんですよ? ほら、子供の時、泣いていた時なんかに、お母さんがぎゅって抱きしめてくれませんでしたか? 抱きしめられるだけなのに、すごく安心するんですよね。 守られてるというか、包まれているというか……そういうのに安心してたんだと思います。 それに、抱きしめてくれる人っていうのはほぼ全員、抱きしめてくれるくらい愛してくれています。 ですから、そういう物を幼いながらに無意識に感じとって、癒されていたのかもしれませんね。 大人になると、そういう訳にもいきませんので……。 な の で、私は、思いっ切り癒しを感じて頂きたいなぁと思っております。 まぁ肌の触れ合いといいましても……膝枕なんですけどね。あなたがお嫌いでなければよいのですが……。 大丈夫ですか? よかった、私、安心しました。 こほん、実は、膝枕とは、昔から癒しの効果があるとされているものなんですよ。 夢枕とも呼ばれていて、遠い昔から安心感を与えてくれるものとして、伝えられているそうです。 それでは、少し失礼して……頭をこちらに……、どうぞ、ご遠慮なく。 ……少し恥ずかしいですね。私、ドキドキしてしまいました。 あなたもそうですか? あはは、ありがとうございます。私も嬉しいです。 聞いた話によると、昔の……戦国武将の方々も女性の膝枕で一日の疲れを癒し、英気を養っていたんだとか……。 ……男性の方はお仕事で気を張ってる方も多いでしょうし。 日々の緊張をやわらかく、ほぐしてあげるためには、膝枕というのは丁度良かったのかもしれませんね。 そういう習慣が今でも残っているのは、少し素敵かなぁと思います。 ……膝枕のままお話するのも素敵だとは思うのですが、せっかくなので、お耳のお掃除をさせて頂いちゃいますね。 こう見えても、私、お耳のお掃除、得意なんですよ。 この風鈴館で働いてる女の子も何人も夢の中に落としてきた実力をもってます。えへへ……。 寝ていらっしゃる、無防備な姿は、その、何だか可愛らしくて……。 ふふふ、あなたはそのままの体勢で大丈夫ですよ。 耳かき棒を取って……と。では、まずは左耳から失礼しますね。 ふふ……、耳かきって自分でしている時と感覚がまったく違いますよね。 自分でする時は耳の中が見えないですし、恐々としている感じがあります……。 やっぱり、膝枕しながらのほうが安心出来るからなのかな? と思ってみたり。 ……では少し奥の方も失礼しますね。 はい……、だいぶ綺麗になってきましたよ。 耳かきなんですが、実は耳の奥の方が皮膚が薄くなっていてるみたいですね。 神経との距離が近くてその辺りに触れると気持ちいいらしいですよ。 ふふふ、では、最後に綿の部分、梵天(ぼんてん)で細かいカスを払いまね。 左耳はこれでおしまいです。 ふふ、眠たそうですね……ここまで来るのにも疲れますものね。 続けて右耳の方もお掃除いたしましょう。左を向いてくださいませ。 では……。 ……このまま眠ってしまってもいいですよ。 こちらも最後に梵天で細かいカスを払いますね。 あら、眠ってしまいましたかね? ふー……。……起きてますか? ふふっ……。お耳、綺麗になりましたよ♪ 子供の頃、お母さんに耳かきをやってもらっているときは、……なんというか、包まれている感じのやさしい雰囲気が好きで……。 あなたが、そういうのを感じてくれていれば、私はすごく嬉しいです。 そんなに、気持ちよかったですか?