Track 1

催眠導入

「さあ、はじめましょう。これから始めるのは、気持ちの良い催眠体験。あなたの意識を解放して、イメージの世界から快楽を拾うものよ」 「まず、昼間ならカーテン閉めるか、夜なら電気を消して周囲の光量を落としなさい。そして目を閉じ、リラックス出来る体勢になりなさい」 「もう一つ。気構えと疑いと現実を捨てなさい。催眠術は意識すればすぐに解けるもの。気構えや疑いや現実に凝り固まっていたら、催眠術どころかリラックスさえ出来ないわ」 「準備が出来たら、目を閉じ、深く深呼吸をしなさい。私が三つ数えたところから、催眠導入を始めるわよ」 「3、2、1、はいっ!(拍手)」 「では、ゆっくり息を吸いながら、透明な水面を思い浮かべなさい。どこまでも透明な、青い水面よ。あなたはそこに浮かんでいるわ」 「次はゆっくり息を吐きながら、水面に沈んでゆく自分を想像しなさい。体が重くなり、浮力があなたを支えている。息は苦しくなくて、水の中の浮遊感があなたを包んでいるわ」 「もう一度ゆっくり息を吸いながら、水面へ浮上してゆく自分を想像しなさい。ほのかに明るさが増し、身体がもっと軽くなってゆくわ」 「もう一度ゆっくり息を吐くと、あなたの身体はさらに深く沈んでゆく。水の青さが増し、浮遊感が肌に強く感じられるようになるわ」 「もう一度ゆっくり息を吸うと、あなたの身体は少し浮かんでくる。少し遠くに水面が見えて、何か小さいものが視界をよぎってゆく」 「息を吐く。さらに深く身体が沈んでゆく」 「息を吸う。浮力を感じる」 「吐く。身体が沈んでゆく。深く、深く、静かに」 「吸う。周囲は青。身体が重い。四肢から力が抜けてゆく」 「吐く。脳から思考が流れ落ちてゆく。頭の中の栓を抜いたように、思考が頭から流れ出て行く」 「吸う。脳の中から汚れ物を洗うように、どんどん色が落ちてゆく。身体は沈み続け、周囲は紺色になってゆく」 「吐く。周囲は深い紺色の世界。静寂の中をどんどん沈み続けてゆく。身体の感覚が溶け出して、周囲と自分の境界が曖昧になってゆく」 「吸う。もう身体は感じられない。あなたに残っているのは脳と心臓だけ。それが冷たい水の底に沈んでゆく」 「吐く。何もかも溶けてしまい、あなたは周囲と同化する。何もかもが自分になる」 「吸う。周囲は深い黒。何かが触れるだけで、あなたは全身にむずがゆさを感じるぐらい敏感になっているわ」 「どう? 深い世界は。あなたは今、生まれる前の母親の子宮に近い場所にいるわ。何もかも保護された、安らぎの世界。でもここで聞こえるのは、あなたの心臓の音とあたしの声だけ。暗い世界に二人っきり。でもあたしの姿は、まだ見えない」 「だからあたしの姿が見えるように、一度目を覚ましてもらうわ。あたしが三つ数えて手を叩くと、あなたは目を覚ます」 「3、2、1、はいっ!(拍手)」 「これでえあなたは目を覚ましたわ。意識ははっきりしているけど、脳は働いていない。深く考える必要は無いわ。あなたが受け止めるのは快楽だけでいいのよ」 「じゃあ普通に呼吸をして、全身の力を抜き続けなさい。もう一度深く、本当の催眠世界に没入するわよ。そこまで入れば、あたしの姿も見えるようになるわ」 「じゃあ目を閉じて。ほら、意識に重りが付いたわよ。身体が下へ引かれる感覚がするわ。その感覚に身をゆだねなさい。すうーっと深みへ落ちてゆく。恐がらず身を投げ込みなさい」 「周りから色が落ちて、深く青い世界に沈んでゆく。意識が遠のくように深くなってゆく」 「周囲の透明度が増して、さらに色が落ちてゆく。背中に感じるのは暗い闇の世界。あなたの意識は、そこへ沈んでゆく」 「黒い虚無の世界にあなたは居る。ここはあなたの無意識に近い場所。あなたの願望が見える場所」 「ほら、あたしの姿を想像しなさい。まずは、陶器のように白い肌。黒いフリルつきの服、リボン、オーバーニーのストッキングに、薄い色の髪の毛。髪の毛は長くて、ツインテールにゆわってあるわ」 「あなたの顔をのぞき込んでいるのは、あたしの赤い瞳。そして形の良い鼻と眉、微笑をたたえる、少しだけルージュを引いた唇」 「細いおとがいと鎖骨の見える肩。全ての線は細めで、この暗い世界では薄く光を発しているように見えるわ」 「あたしの姿が見えるようになった? 今あたしたちは、何も無い黒い世界に浮かんでいるわよ。じゃあ、今度は場所を作りましょう。あなたがリラックス出来て、そして行為にふけるのにふさわしい場所よ」 「まず光。自分の居た場所を思い出しなさい。次に長方形の部屋が現れる。次に窓と家具。次はあなたの周囲の物」 「あたしはあなたの前に立っている。わかる? ネコがネズミをいたぶるような笑顔を浮かべて見下ろしているのよ、あたし」 「これで舞台は出来たわ。ようこそあなたの願望の世界へ。ここではどんな妄想も思いのまま。あたしが、最上級の快楽をあなたに与えてあげるわ。あたしがここで見ていてあげるから、あたしの言うとおりにして快楽にふけりなさい」