Track 5

3-1.商人さんと焼きもち

3-1  私と旦那様の暮らしている家は、人里離れた場所にあります。  旦那様は家で仕事をしています。お話を書いて、それを本にして売る……文筆業、だそうです。ですから、あまり外に出ず、町に向かうことはほとんどありません。  なので、生活の必需品を補うために、この家には定期的に商人さんがやってきます。  二人分の食べ物や服、小物などを仕入れては、旦那様の家に来てくれるのです。  ……あ。馬車の音……  旦那様? 商人さんがいらっしゃいましたよ。  はい。分かりました。私、待ってますね。  ……ふぅ。まだ少しだけ、旦那様以外の人と会うのは、少し怖いな……。  ……そういえば、商人さんって、どんな人なのかな?  顔、見たことないなぁ。  旦那様は、面白くていい人だって言うけど……。  ……旦那様、商人さんが来ると、何だか嬉しそうなんだよね……。  そんなにいい人なのかな。  ……窓から、こっそり覗いてみよっと。  ん……しょっと。  ……旦那様、商人さんと話してる。とっても、楽しそう。  それで、商人さんは……  ……あれ?  え……ええっ!?  ……ずーっと、いかついおじさんだと思ってたけど……  ……女の人、だったんだ……。  それも……なんだか、綺麗……。  ……だから……かな。  あんなに、楽しそうなの……。  ……うぅ。  ……だめだめ。変なこと考えちゃ。  でも……。  ……旦那様、笑ってる……。楽しそうに……お話して……。  …………。  ……あっ。  だ、だめっ。  い、今……私のこと……見られた……よね。  あの商人さん……私のこと……ちらっと、見て……。  ニコって……笑いかけてきた……  あああ、やっちゃった……。  ……旦那様、変なこと言われたりしないかな……。  ハーフエルフなんかと、一緒に暮らしてるって……。  まずいことしちゃった……。  うぅ……。  ……あ……。  商人さん……帰っていく……。  ……大丈夫……だったのかな……? それとも……誰か、他の人を呼んでくるとか……?  あ……だ、旦那様……。  あ、あの……。その。何か、変なこと……言われませんでした……か? 商人さんから……。  …………。  ……ごめんなさい。私……気になって、覗いてたら……商人さんに、顔、見られちゃって……。  だから……その。私のことで、何か、嫌なこと、言われたりとか……  ……旦那様?  急に、どうしたんですかっ。わ、笑わないで、くださいっ。だって、私……人間の旦那様と暮らしてるところ、見られちゃったから……っ。  ……え?  ……あの人、知ってるんですか?  ……私がハーフエルフだって?  ……本当ですか?  だ、だって……私、ずっと、あの人と会わないようにしてたのに……知ってるはずが……  ……あ。  ……そっか。たまに、女の子用の服を買ってれば……一緒に暮らしてるのは、分かりますよね……。  ……そのときに、話したんですか?  それって……。  ……もう、二か月も前のことなんですか?  ……はぁああ……。  ……そうだったんですか……。  あの商人さん……旦那様が、ハーフエルフと暮らしてることを知って……それでも、変わらずに荷物を届けてくれるんですね……。  あはは……。  ……私、ほんとに、馬鹿だな……。  ……人間にも、いい人だって、いるよね。  だって……旦那様が、そうなんだから。  いえ……。なんでもありません。  ごめんなさい、旦那様。変な心配、してしまいました。  ……それで、今日は、何を買ったんですか?  髪飾り、ですか? ……それって……私の?  ふふ……ありがとうございます。嬉しいです。  でも……少し、私用の小物を、買いすぎですよ、旦那様。来るたびに、何か買ってるじゃないですか。  あの商人さんに、上手いこと買わされちゃうんですか? 私に似合うから、って?  もう……。  ……やっぱり、人間は悪い人ばっかりです♪  それから、一週間後――  その商人さんが再び家に来た時に、私は勇気を出して彼女と話してみました。  彼女は、旦那様の言う通り、面白くて、とってもいい人でした。  ただし……私が軽い焼きもちを焼いていたことは、彼女にはお見通しだったらしくて……  ……たっぷり、からかわれてしまいました。