3-1.商人さんと焼きもち
3-1
私と旦那様の暮らしている家は、人里離れた場所にあります。
旦那様は家で仕事をしています。お話を書いて、それを本にして売る……文筆業、だそうです。ですから、あまり外に出ず、町に向かうことはほとんどありません。
なので、生活の必需品を補うために、この家には定期的に商人さんがやってきます。
二人分の食べ物や服、小物などを仕入れては、旦那様の家に来てくれるのです。
……あ。馬車の音……
旦那様? 商人さんがいらっしゃいましたよ。
はい。分かりました。私、待ってますね。
……ふぅ。まだ少しだけ、旦那様以外の人と会うのは、少し怖いな……。
……そういえば、商人さんって、どんな人なのかな?
顔、見たことないなぁ。
旦那様は、面白くていい人だって言うけど……。
……旦那様、商人さんが来ると、何だか嬉しそうなんだよね……。
そんなにいい人なのかな。
……窓から、こっそり覗いてみよっと。
ん……しょっと。
……旦那様、商人さんと話してる。とっても、楽しそう。
それで、商人さんは……
……あれ?
え……ええっ!?
……ずーっと、いかついおじさんだと思ってたけど……
……女の人、だったんだ……。
それも……なんだか、綺麗……。
……だから……かな。
あんなに、楽しそうなの……。
……うぅ。
……だめだめ。変なこと考えちゃ。
でも……。
……旦那様、笑ってる……。楽しそうに……お話して……。
…………。
……あっ。
だ、だめっ。
い、今……私のこと……見られた……よね。
あの商人さん……私のこと……ちらっと、見て……。
ニコって……笑いかけてきた……
あああ、やっちゃった……。
……旦那様、変なこと言われたりしないかな……。
ハーフエルフなんかと、一緒に暮らしてるって……。
まずいことしちゃった……。
うぅ……。
……あ……。
商人さん……帰っていく……。
……大丈夫……だったのかな……? それとも……誰か、他の人を呼んでくるとか……?
あ……だ、旦那様……。
あ、あの……。その。何か、変なこと……言われませんでした……か? 商人さんから……。
…………。
……ごめんなさい。私……気になって、覗いてたら……商人さんに、顔、見られちゃって……。
だから……その。私のことで、何か、嫌なこと、言われたりとか……
……旦那様?
急に、どうしたんですかっ。わ、笑わないで、くださいっ。だって、私……人間の旦那様と暮らしてるところ、見られちゃったから……っ。
……え?
……あの人、知ってるんですか?
……私がハーフエルフだって?
……本当ですか?
だ、だって……私、ずっと、あの人と会わないようにしてたのに……知ってるはずが……
……あ。
……そっか。たまに、女の子用の服を買ってれば……一緒に暮らしてるのは、分かりますよね……。
……そのときに、話したんですか?
それって……。
……もう、二か月も前のことなんですか?
……はぁああ……。
……そうだったんですか……。
あの商人さん……旦那様が、ハーフエルフと暮らしてることを知って……それでも、変わらずに荷物を届けてくれるんですね……。
あはは……。
……私、ほんとに、馬鹿だな……。
……人間にも、いい人だって、いるよね。
だって……旦那様が、そうなんだから。
いえ……。なんでもありません。
ごめんなさい、旦那様。変な心配、してしまいました。
……それで、今日は、何を買ったんですか?
髪飾り、ですか? ……それって……私の?
ふふ……ありがとうございます。嬉しいです。
でも……少し、私用の小物を、買いすぎですよ、旦那様。来るたびに、何か買ってるじゃないですか。
あの商人さんに、上手いこと買わされちゃうんですか? 私に似合うから、って?
もう……。
……やっぱり、人間は悪い人ばっかりです♪
それから、一週間後――
その商人さんが再び家に来た時に、私は勇気を出して彼女と話してみました。
彼女は、旦那様の言う通り、面白くて、とってもいい人でした。
ただし……私が軽い焼きもちを焼いていたことは、彼女にはお見通しだったらしくて……
……たっぷり、からかわれてしまいました。