片道、空の旅
「こんばんは。……え、いや、だからなんでテンション上がってるのよ。気持ち悪い……」
「ああーっもう! アタシの一言一句に感動しないでよ! やりづらいなぁ~……」
「うん、そう。もうすぐ、だから。迎えに来たんだけどさ」
「アタシが見ても、あと一時間で死んじゃうなんて信じられないくらい元気だね。アンタ」
「せっかく時間まで教えてあげたのに、死に目に家族くらい呼ばなくてよかったの? 面会できる時間じゃないだろうけど……なんか適当に理由つけてさ。個室だし」
「あー……、アタシが来るなら? 二人きりで話したかった……、はー。はいはい。まだ諦めてなかったんだ」
「あっ……、う……。だからアンタ……よく、そんな、は、恥ずかしげもなく何度も告白できるね……」
「うう~……。んー……。あのね。全然、そういうんじゃないんだけど。どうせあとちょっとの時間だし……」
「べ、別に義務じゃーないんだけどねー? 最後の願いとかはなるべく聞いてあげる風潮、最近あるしねー。うん」
「あー……いいよ。……ん。アンタのわがままに付き合ってあげるって言ってんの」
「そんな嬉しそうに……大げさだなぁ。……え? っ、ちがう! こ、恋人とかじゃないから。一緒にいてあげるだけ!」
「それは元々そのつもりだったしね。アンタの意識がなくなるまでのあいだ限定で、話し相手になってやるから。感謝しなさいよ?」
「……つってもさ。そうだなぁ。このまま病室でっていうのもなんじゃない? どうせならさ、最後にどっか行きたいとことかある?」
「アタシがこっそり連れ出してあげるからさ。うん、後のことは心配しなくていいよ。あーでも、あんまり遠くじゃないほうが助かるかな」
「……ふーん。こっから見えるあのタワーね。スカイウッズタワー……最近できたの? そりゃ、最近できたんなら、アンタが行ったことあるはずないよね」
「わかった。じゃあ行こうか。高さならアタシの得意分野だから」
「どういうこと、って……それは……。んー、アンタひとりくらいならいけるかな。……ん。」
「何してんの、時間ないんだから。はやく後ろから、腕まわして。そう。もっと、ぎゅっと……」
「……あ。いや! これは、その。そういうのじゃ、ないから。ね? うん」
「ああ~、うるさい! いい、そのままだからね!? つまり、こういう、ことっ!」
「ほら、しっかり掴まってなさいよ。あと一応、口も閉じといたほうがいいよ」
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「はい、着いた。スカイウッズタワー。……大丈夫? これで寿命縮んだりしなきゃいいんだけ、ど……」
「……は? 見た目の感じよりおっぱいおっきかった? よかったね? 飛んでる最中に言ってたら無言で振り落としてたよ?」
「はー。んなこと言える元気あるならまだ大丈夫か。ファンタジー好きなんでしょ。やっぱ、こんなことが起こっても受け入れられてるんだね」
「ん? んー、別に死神だからできるってわけじゃないよ。アタシだから、できるの。ほんとはスピードだってもっと出せるんだよ。ふふん」
「いい眺めだね。こりゃあ、生きてるうちに見たくもなるか。しかもこんな不安定な足場、普通に来たって出られない場所だよね」
「ふふ。風が気持ちいいでしょ、高いとこって。アタシも慣れないうちは飛ぶの怖かったけど。いくら煙がナントカって茶化されようが、結構好きだよ、こういうとこから景色を見下ろすの」
「ふー……、あっちのほうは何かなー。別のタワーが見えるんだっけ」
「……何してんの? ちょっ、あ、アンタは飛べないんだから、あんまり端のほう行くと……、本気? 待て待てっ、まだちょっと早いから!」
「ほら、危ないでしょ……。アンタねぇ、あとちょっとしかないからって、もう少し自分の命を大事にしなさいよ?」
「……ってこれ、アタシが言えたことじゃないんだけどさ……」
「……へ? 胸……? ……っ! おい、アンタもしかしてわざと……。やっ、やめろ。抱きつくな、ばかっ」
「へぇぇ……? わざわざこんな場所まで来たってのに……やっぱり、結局そういうことしたいんだ?」
「ぐっ……清々しいくらい迷いがない。……ふふっ。はぁ~……わかった。もう。マジでバカ。大馬鹿」
「じゃーもう、好きにすればいいよ……うん。……ふ、ふんっ。えーと、冥土の土産? もうすぐ死んじゃうカワイソーな馬鹿男へ、せめてものお情けってやつかな」