Track 4

猫又さんの爪切り

ほら・・・冷えないように服を直してこたつにいらっしゃい。 下半身露出したままだと風邪を引くか投獄されるか、どっちにしても人間って大変ね。 にゃによぅ・・・猫のせいにしないで。 あなたがわたしの匂いを消すからでしょう。 はい、いらっしゃい。 お茶いれてあげるから。 お茶っ葉新しくして・・・ポットってすごい発明ね。 いちいちお湯を沸かし直さなくてもいいんだもの。 昔は大変だったのよ。 井戸で水を汲んで、囲炉裏で炭をおこして、五徳を置いて鉄瓶で沸かして・・・ それが今じゃスイッチぽんだものね。 人間も妖怪もダメになるわけだわ。 はい、お茶どうぞ。 わたしも・・・んくっ、んくっ・・・ふぅ、おいしい。 人の姿を取れるようになってからあたたかいものも食べられるようになったわ。 葱もチョコレートもみかんも苦手なままだけど・・・ もっと長生きしてシッポを増やせば食べられるようになるのかしら。 にゃあ・・・それまであなたも生きていてちょうだい。 にゃ、にゃに・・・告白みたいって・・・。 まあいいわ・・・なら、さっきのがその・・・愛の告白だとして・・・ もっといやらしいことしてあげようか? 手を見せて。 うーん・・・うん、やっぱりのびてる。 予定調和っていい言葉よね。 待っていて、準備するから。 えーとこの間の中に一緒に・・・ これとこれと・・・。 にゃに?爪切りよ、見てわかるでしょう。 何だと思ったのかしら。 それをどうするって・・・あなた、爪切りで他にどんなことをするっていうのよ・・・。爪を切るための道具に決まってるでしょう? 古新聞紙を一度丸めてー・・・開いてお皿にする。 こうしておけば爪が散らからないの。 おばあさまがわたしの爪を切るときにもやっていたわ。 あなたは忘れちゃった? さ、片方手を貸して。好きな方からでいいから。 けっこうのびちゃってるわね、無精なんだから。 まあちょうどいいけど・・・。 ここなんか爪の間に土が入ってしまっているし・・・くしゅっ。 ごめんなさい、こたつ出たらくしゃみ出ちゃって・・・うぅ・・・。 んう?自分がこたつ出るから・・・って、ありがとう。 あ、じゃあこっちに背中向けて座ってちょうだい。 そこにくっつくから。 ほら、こうやってくっつけばあったかい。 また当たっちゃうかしら・・・にゃふふ、なーにが? 反対側の肩に手を回すようにして・・・そう、そうやって手を出して。 まずは親指・・・。 ん、しょ・・・にゃ、ごめんなさいっ。 爪がほっぺたにあたっちゃった・・・んぅ、ぺろっ。 大丈夫?なら良かったわ。 そうだったわ・・・大事な手順・・・。 あーんむ・・・はむ、んん・・・。 んぅ・・・?指をしゃぶっただけなのに驚かないでほしいわ。 どうしてか・・・わからない? 乾いたままで切ると、男の人の爪ってかたすぎて切りづらいし、 さっきみたいに飛んでしまうことがあるの。 だけどお風呂の後とか・・・柔らかすぎるときもだめ。 爪が割れてしまうんですって。 だから・・・はむっ・・・んにゅ、んぷぅ・・・ ちゅぷれるぅ・・・んむ、ちゅっ・・・ちゅぅう・・・。 ぷはぁ、やっと程良くふやけてきた。 ん、っしょ・・・うん、ふぅ・・・切れた。 おばあさまがあたたかいおしぼりでやっていたのを真似てみたけど、 にゃふふ・・・正解だったみたい。 爪を切るの・・・確かにこれは別にいやらしくないわ。お母さんだってすること。 でもこれを爪切りからやすりに持ちかえて・・・削る。 これはそのぅ・・・こ、恋人のすること。 爪はそのまま切っただけだと、角ができているし、 甘皮が皮膚の薄いところや粘膜に当たると痛いの。 それを処理するのは・・・その、つまり・・・ 触ってもらうためのじゅ、じゅんび・・・にゃあ。 にゃによぅ・・・そんなあからさまに照れるんじゃないわよ。 他の指も切るから、だ・・・出しなさい。 にゃ、にゃあ・・・照れてるのは、あなただけ、だもん・・・にゃぅう。 あーん、はぷっ・・・ほひゃのよんぼん・・・ んむ、じゅりゅ、じゅぶ・・・まほめてしゃぶっへやるかりゃ・・・。 ん、じゅる・・・じゅりゅぅ、じゅちゅ、はぶぶ・・・ んぷぷ・・・じゅぶる、じゅりゅぅう・・・。 はふ、ぷはっ・・・流石に四本まとめては口が疲れるわね。 大丈夫よ、わたし・・・あなたより年の功ってものがあるもの。 鼈甲より希少価値なのよ。 す、すごいでしょう。 んぅ・・・よしよし、少しふやけて切りやすいわ。 あのね、さっき・・・照れてごまかしてしまったけど、 あなたに触って欲しい、撫でて欲しいって・・・そのための準備を 女の子の方からしてあげるっていうのはとても、いやらしいことだと思うの。 触ってもらうために爪を切って、ヤスリをかけてきれいにする・・・ これってその、人間で言うとこの・・・前戯みたいなものじゃない・・・? そんなに真っ赤にならないで欲しいわっ。 本当はこういうのわざわざ説明するのって野暮なんだから。 でもあなたって鈍感だし、解ってくれないじゃない。ちゃんといわないと。 んもう・・・本当に困った飼い主ね。 ・・・はい、できた。 やすりで・・・ 今はこんな便利な道具も売っているのね。 お母さまが爪切りと一緒に置いていたやすり・・・ 目の荒いものから細かいものまでが一本にまとまっていてすごいわ。 使いやすいし・・・にゃふふ、楽しい。 甘皮も・・・んんっ・・・ふぅ、くすぐったい? お口でふやかしてここも柔らかくなってるから・・・ん、ふぅ・・・ん、っしょ・・・。 こっちの手は終わり。 もう片方もやるから・・・貸してちょうだい。 はぁむ、ぷぁ・・・んちゅ、ちゅる・・・んむぅ・・・。 はふ・・・んじゅる、ちゅるれろぉ・・・。 んぅ、ぷは・・・大きくなったわね。 指もそうだし、体中・・・あそこだって立派に大きくなったわ。 爪だって分厚くかたくなった。 まあ、わたしだってまさか・・・ 自分が人の姿を取れるようになってあなたに爪切りしてあげるなんて・・・ 思わなかったわよ。 ん、よし・・・あとは削って・・・。 あなただって、自分の飼い猫が 女の子の姿で話しかけてくるなんて思ってなかったでしょう? その猫に迫られて・・・いやらしいことまでしちゃうなんて。 にゃふ、動かないの・・・。 ん、っしょ・・・ふぅ、できた。 次の指・・・はぷっ、んんぅ・・・ちゅる、れろぉ・・・んぷ、んっく・・・はぁ。 それとも・・・嫌だった? いつもみたいな猫が甘える程度の戯れは許せても・・・ いやらしいのはまともな人間の女としかしたくない・・・にゃあ? にゃふ・・・あなた、優しい子ね。 寂しそうな声を出しただけでうろたえて・・・気を付けなさい。 人間の女は猫なんかよりずっと狡猾よ。 ・・・はぁい、次。 あむぅ・・・ちゅる、れろれろぉ・・・あぷ、んんっ・・・ちゅるちゅる・・・。 はふ、んぁあ・・・パチンパチン、っと・・・。 わたしが憑いていってあなたに近寄る女共を一掃してあげたいけど・・・ 都会は動物立ち入り禁止の場所が多いでしょう。 はい、爪やすりに持ちかえて・・・。 物騒なことなんて言ってないわ。 単なる猫の気まぐれな妄想を語ってるだけよ・・・にゃあ。 隅の所も丁寧に削って・・・ん、ぅ・・・。 次は薬指ね・・・んちゅ、れろれろぉ・・・ はむ、んちゅ・・・ちゅっ、ちゅ・・・ちゅぱぁ。 人間のつがいはこの指にお揃いのわっかをはめるんでしょう? 婚約指輪というのよね。 あむっ・・・かぷ、かぷかぷ・・・んふぁ・・・歯形ついた。 にゃふふ・・・ちょっとしたいたずら。 でもこの跡は・・・しばらく残っちゃうわね。 誰かに見られたらなんて説明するのかしら。 わたしの声が聞こえるのは・・・ 今はあなただけだから、あなたが言い訳するしかないわね。 にゃあ・・・やっぱり、困った顔しても結局甘やかしてくれる。 そういうところ・・・好きにゃあ。 さあ、最後の指。 あむっ・・・かぷ、ちゅる・・・れろれるぅ・・・あむ、ちゅ、ちゅるる・・・。 ふぁ・・・ふやけた。 爪切り、パチン・・・ぱちん・・・。 小指がわたしの親指くらいある・・・。 立派なものね・・・っしょっと・・・ん、ぅ・・・。 削ったら完成。 あ、赤い顔してないで・・・わたしまで・・・。 て、てれ・・・ないわよっ。 にゃあ・・・若造なんだから。 でも・・・にゃふ、そういう昔から変わらない照れ屋なところ、かわいいと思うわ。 ・・・これで全部できあがり。 ねえ、そろそろ返事を聞かせてくれないかしら。 わたしはちゃんと伝えたけど・・・ あなたはわたしのことをいやらしく可愛がってくれるかしら? ・・・それは本当ですか? 今だけじゃなくて・・・この先も可愛がってくれますか? こっち向いて。 この歯形に誓って・・・じゃ、じゃあ・・・人間のやり方で・・・。 その、誓いの・・・ちゅっ。