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幽霊さんのうらめし耳かき

う~ら~め~し~や~。 ああ、恨めしい・・・何故また私の眠りを邪魔すると言うのですか・・・。 奥様に頼まれたのですか? あの方はまだ私を憎んでいらっしゃるのですか!? ふふ・・・違うのですか。 うっかり見ず知らずの方を勘違いで取り殺してしまうところでした。 私はこのお屋敷に仕えていた女中にございます。 ただの下働き・・・しかし、旦那様は私のあることをとても気に入ってくださいました。 これです、解りますか?耳かきです。 旦那様は私の耳かきを誉め・・・私をお傍に置いてくださいました。 私の為に、職人に最高の耳かきを作らせるほどに・・・あら? あなたの耳、旦那様のお耳によく似ていらっしゃる。 ふふ・・・それにこんなに汚れて・・・掃除させてくださいませ。 いいえ、遠慮なさらずに。 まあ、遠慮などしようとしても・・・もうあなたは動けないでしょうけれど。 最初におしぼりで周りを拭いていきますね。 ふきふき・・・んっ・・・んんっ・・・ あらあら・・・こんなに鳥肌を立たせてどうしましたか? おしぼりが冷たいですか? んぅ・・・ふきふき・・・ふきふき・・・。 それとも、私の手が冷たいのでしょうか・・・。 耳たぶの裏も・・・ん、ふきふき・・・ふぅ・・・ この軟骨の所にも汚れが溜まりやすいのですよね・・・ 指先で・・・くりくりっ・・・ん、んぅ・・・くりくり・・・。 ふふ、汚れ具合も旦那様とそっくりです・・・。 んんっ・・・はい、綺麗になりました。 それでは中のお掃除を始めますね。 怖がらないでください・・・言ったでしょう、旦那様も誉めてくださったと。 「耳かき小町(みみかきこまち)」なんて呼ばれていたのですよ。 耳かきを差し入れて・・・かりかり、んんっ・・・かりかり・・・ ゆっくりと汚れを掻き出していきますね。 丁寧に丁寧に・・・ふぅ、かりかり・・・かりかり・・・ どうですか、気持ち良いでしょう? こうやって中にこびり付いた汚れをこそげとるように・・・ 力加減を間違えると痛いのですよね。 旦那様はお耳かきが好きですが、同時にとても痛がりで・・・ ん、ふはぁ・・・かりかり・・・んんっ・・・ 私の前に耳掃除を担当していた女中は うっかり旦那様のお耳を傷付けて首を切られたと聞きました。 だから私も初めてお耳かきをしろと言われたときは緊張したものです。 奥に進みますよ。 ああ、薄暗くて・・・近付かないとよく見えませんね。 ふふ、一かき・・・二かき・・・こんなに大きな汚れが出ますよ。 んぅ・・・んん、大丈夫・・・ 私は一度も、旦那様に痛い思いをさせたことはありません。 むしろ天にも昇る心地、だそうです・・・ん、かりかり・・・。 んんっ・・・ふぅ、はぁ・・・本当にそうですか? ふふ、成仏できなくなった私には理解のできない事ですが・・・。 ・・・まあ、とても大きい・・・。 これ掻き出しますね・・・んんっ、んく・・・ふぅ、もう少し・・・ 今綺麗にしてさしあげますから・・・んぅ・・・はい、取れました。 こちらのお耳は綺麗になりましたね。 では仕上げに・・・息を吹きかけますね。 旦那様に教わったのですよ・・・耳かきの最後にするとたまらなく気持ちがいいと。 はぁい・・・ふー・・・ふー。 それでは、反対側もお掃除しますね。 私が移動しますから、あなたはそのままで居てくださいませ。 こちらの耳もなかなかの汚れ具合・・・。 ふふ、まずはおしぼりで拭いていきますね・・・。 んぅ・・・ふきふき・・・見れば見るほど、旦那様に似ていらっしゃる。 耳たぶの柔らかさも・・・耳の裏にはりついた汚れの具合も・・・ んぅ、ふきふき・・・んんっ、んはぁ・・・何もかもそっくり・・・。 特にこの・・・軟骨に垢が溜まってしまう所なんて・・・ んんぅ・・・ふぅ、は・・・旦那様が帰ってきてくださったみたい。 あんなに愛していると言ってくださったのに・・・ 私を置いて奥様と成仏なさるだなんて・・・本当に酷い旦那様・・・! あっ・・・申し訳ございません!つい強く擦ってしまいました・・・。 首をお切りになりますか? 今なら何度切られても血も出ませんよ?もう死んでいますから・・・。 え?許してくださるのですか? ・・・耳以外は旦那様と違うのですね・・・優しい方。 いえ、旦那様が優しくないというわけでは・・・ それ以上に厳しい方であったというだけなのです。 五本組の耳かきを頂いた時だって・・・ 冗談めかした口調ではありましたは「無くしたり壊せば命は無い」と言われました。 見てください・・・細く、とてもよくしなり、美しいでしょう? 中の掃除をしていきますね・・・ 浅い所から・・・んんっ・・・かりかり、ん・・・ 私の命よりも大切にしていたのですよ・・・かりかり・・・ふぅ・・・。 ん、く・・・それなのに・・・。 んっ・・・かきかき・・・んんっ・・・ ある朝、目を覚まし・・・いつもの様に耳かきの入っている箱を開けました。 揃っているのを見ないと安心できないようになっていたのです。 しかし・・・一本足りません。 決して無くさぬように、眠る前にも揃っているのを確認したはずです。 必死に部屋を探しましたが見付からず・・・私は外を探し始めました。 まあ、奥に大物が・・・んんぅ、かきかき・・・んくっ・・・ 届いた・・・んっふぅ、取れました。 何処で見付かったと思いますか?耳かき・・・。 奥様が持っていらっしゃったんです。 私の事を嫌っていらっしゃるのは知っていましたが・・・ まさかあんな仕打ちをなさるなんて・・・。 庭に大きな池があったでしょう? 前にも下働きの子供が溺れたことのある・・・底の見えない池。 奥様は私の目の前で耳かきを池に投げました。 私はとっさにそれを追いかけて池に飛び込み・・・ しかし見つけられぬままに命果ててしまいました。 結局、耳かきを無くした事を悔やんで自ら水に入ったことになったそうです。 ふふ・・・真実を解って頂いて二人で添い遂げようと・・・ 旦那様も池の底へ呼んだのですけどね。 私を選んではくださらなかった・・・。 できました・・・綺麗になりましたよ。 私、上手にできましたか? ・・・まあ、嬉しい・・・!そんな感謝の言葉なんて初めてです・・・! ふー・・・ふー・・・決めました。 旦那様の生き写しのような耳を持つあなたにこうして出会えたのもきっと運命・・・。 ふふ、あなたは私の新しい旦那様です。 あなたが死ぬまで・・・いいえ、死んでも永遠に・・・ あなただけの耳かき小町としてお仕え致しますね・・・ふふ、ふふふふ。

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