プロローグ
プロローグ
……はぁ、はぁ、……はぁ、はあ……っ。
あの、パン屋、まだ追いかけて、きて……っ。
パン、たった、一個、だというのに……っ。あんなに、本気に、なるとは……っ。
私の……顔と、肌を、見て……思いっきり、馬鹿にしてきた、のに……っ。
自業自得、です……っ。
そんなに、私みたいな子が、憎い、ですか……っ!
痛(いた)……っ。つ、ぅ……。さっき、足、引っかけたところ、こんなに、切れてたんですね……。
出血が、ひどい……。
けど……我慢、しないと……。このままじゃ、捕まって……ひどい、目に……っ。下手すれば、また奴隷に、売られる……っ。
はぁ、はぁ……はぁ……。
あ……この家の扉、開いてる……人のいる家かな……
……捕まるよりは、マシ、です。ここに入って、やり過ごす……っ。
……はぁ、はぁ、はぁ……。
はぁ……ふぅ。
ひとまず、撒けた、でしょうか……。
……さて、と……
二日ぶりの、まともな食事……。
あむ……っ。あむっ、あむっ、はぐっ、もぐ……っ。
ん……は、ぁ……。
美味しい……。
人間なのに、こんなに美味しいものが、作れるんですね……。
それに、毎日、美味しいものを食べられるなんて……。
……。
私は……。
……っ! 誰、ですか……!?
に、人間……っ!
いつからここに……っ!? 私を、追いかけて……!?
……。違う……の、ですか?
ここは……あなたの、家?
……そうですか。
私は、謝りません。ドアの鍵が、開いていたのが悪いんです。
それで、どうしますか。私がここにいると、追っ手に知らせますか?
……なぜ、私が、追われているか……ですか?
さぁ。知りません。きっと、私のことが気に入らなかったんでしょう。
……このパンですか?
これは、パン屋の方が“快く”譲ってくれただけです。
決して、盗んだわけではありません。
……どうでもいいでしょう、そんなこと。
あなたが、追っ手を呼ぼうと呼ぶまいと、私はここから出ていきます。
……それとも、あなたがここから出ていってくれても構いませんが。そうすれば、しばらく私の住む場所ができて、ちょうどいいです。
……なんでしょうか。
そう、です。私の住む場所なんて……あるわけ、ない。
普通の街には住めません。私たちは、森からも追い出されますし、野宿は危険で……
私が、ダークエルフ、だというだけで……! エルフも……人間も……私を……!
……。
……話し、すぎました。忘れなさい。
私は、もう行きます。
私のことは、放っておいてください。もし追いかけてくれば、ただでは済みません。
それでは……
痛……っ。
く、ぅ……っ。これくらいの、怪我……っ。
大丈夫……大丈夫、だから……
……。
離しなさい。
……なんですか。やっぱり、追手を呼び寄せて……私を、捕まえさせるのですか。
私が、ダークエルフだから?
あなたも、他の人間と同じように……ひどいことをするのですか……
……違う?
“ちょうどいい”とは、一体……
……え?
“しばらくここにいていい”……?
嘘……でしょう?