プロローグ
そのまま出ると、濡れてしまいますよ。
ごめんなさい。急に話しかけたせいで、驚かせてしまいましたね。
・・傘を忘れたのですか?
今日は冷えますから、濡れると風邪を引いてしまいますよ。
私は折りたたみを持ってきています。一緒に帰りませんか?
また驚いた顔をしていますね、どうかしましたか?
・・意外、ですか? ふふ、私もそう思います。
どうされますか?一緒に帰りますか?
・・はい、では、中に入ってください。
すみません。私の傘、小さすぎました。
これでは二人とも、濡れてしまいますね。
・・いえ、先輩がキョロキョロ周りを見回しているので。
違いましたか?
・・知り合いに見つかると噂される・・?
そうですね。それは気づきませんでした。
・・私は構いませんが・・。
いえ、何でもありません。
雨音って、素敵だと思いませんか?
傘やアスファルトにはじかれる水音、屋根をトントンと叩く音。
地面をしとしとと濡らす音。
どれも心地よく耳に響きます。
私は、晴れの日と同じくらい、雨の日も好きなんです。
この気持ち、先輩にもわかりませんか?
・・・・さすがに、今日はちょっと降りすぎですね。
あ・・あそこは、先輩がいつも利用しているパン屋ですね。
ちょっとだけ、寄っていきませんか?
このパンは、先輩がいつもお昼に食べてますね。お気に入りなんですか?
・・違いましたか。そうですね。毎日食べると、飽きてしまいますね。
私ですか?私は、自分で作ったお弁当を食べています。
・・はい、自作ですよ。私は料理が好きなもので。
先輩は、母に作ってもらったりはしないのですか?
・・普段ご両親はご不在なのですか。すみません。
では、今度から、私が作って持ってきてもいいですか?
・・また、驚いた顔をしていますね。
ふふふ、先輩がよければですよ。
はい、では、明日早速作ってきてみます。
何か好きな物とかありましたら教えてください。
先輩の家につきましたね。
あの・・。
服が濡れてしまったので、乾くまで上がらせてもらってもよろしいですか?
・・ありがとうございます。
それでは、お邪魔します。
先輩は、沢山本をお持ちなんですね。
・・いえ、もう少し散らかっている状態を想像していたので、綺麗だと思います。
小説も・・漫画も。・・推理物、恋愛物、冒険譚・・。ジャンルを問わず、様々な本が並んでいます。
あ・・これは・・きゃっ!
・・・すみません。
あ・・はい、私の手、大分冷えてしまっています。
・・そうですね、片付けるまで、シャワー浴びてきます。
・・先輩。
男性の部屋なんですから、そういう本があるのは当然だと思います。
私は、理解しているつもりですから。