22日目
―リビング・夜―
妹374「(兄ちゃんへ感謝の気持ちを伝えてから、一週間が経った)」
妹375「(勝手な解釈だけど、兄ちゃんの伝えたい意図を理解してからは、あたしの気持ちもだいぶ楽になっていた)」
妹376「(今では逆に、無口系男子となった兄ちゃんを相手するのが楽しくなってきたくらい)」
妹377「(実は、結構要領よく付き合えば、今の兄ちゃんとも普通にコミュニケーションが取れるのだっ!)」
妹378「あ、兄ちゃん、テレビ見てるんだ。だが残念っ! 妹ちゃんが現れたとなってはもう大変だっ! 妹ちゃんは今日借りてきたDVDを見たいと言っているぞ~? どうする~、どうす――おぉっともう遅い!! 妹ちゃんはDVDデッキにDVD(でーぶいでー)を挿入してしまったァ!! ぁぽちっとな」
兄「……」
妹379「兄ちゃんが何も文句を言わないのが悪いんじゃよ。さぁさぁ、あたしと一緒にDVD(でーぶいでー)を鑑賞しようじゃないかっ」
兄「……はぁ」
妹380「ほほほ。兄ちゃんが溜息をついておるわ……そんなこと知ったことじゃないのじゃ。んじゃ、入力ボタン押しーの……ぴっ」
音楽が流れる。
兄「ちょ」
妹381「ふふふのふ。これはみっちゃんのおすすめ、日米共同制作の和ホラー映画なのじゃ。ホラー物は兄ちゃん嫌いだったよのぉ?」
兄「ちょっとトイレ」
妹382「むぅ、トイレなんぞ行かせるものかっ! ちぇぇえいっ!」
兄「うぐぅっ」
妹383「ふふふー。兄ちゃんの胡坐の上ゲットなのじゃ。背中がぴったりフィットするから、兄ちゃんの足の上は好きじゃぞ」
兄「……」
妹384「ほれ、頭の上に顎を乗せてもいいんじゃよ? ちょうど定位置なのじゃろう?」
兄「……」
妹385「ふふっ、やっぱコレが一番だっ」
兄「……」
妹386「んじゃ、映画見るのに集中しよー」
―リビング・夜―
妹387「……」
兄「……」
妹388「(いつの間にか、お腹に兄ちゃんの両手が回ってる……なんだこの抱擁感)」
兄「……」
妹389「(このままあすなろ抱きしてくれないかなー、両手をそのまま首のほうまで上げて、ぎゅっとしてくれればいいんだけどなー)」
兄「……」
妹390「(って、いかんいかん。兄ちゃん相手に何を考えているんだあたしは)」
兄「……」
妹391「(でも……なんだか……)」
兄「びくっ」
妹392「ひぅっ」
兄「どきどき」
妹393「どきどき」
妹394「(このどきどき……あれだな! 吊り橋効果ってやつだな! ホラー映画見ているときのどきどきと、ときめくときのどきどきを履き違える、アレだ!)」
兄「……」
妹395「(うぅー、今になって男女がホラー映画を見たがる理由が解ったぞ! お互いを好き合いたいがために見るんだな! くぅ、よりによって兄ちゃんと見るだなんて……)」
兄「……」
妹396「(あぁーもーどきどきが止まらないよぉ……。なんで? ホラー映画見てるから? うぅー、兄ちゃんに後ろから抱きしめられてるのが無性に恥ずかしくなってきたよぉ……)」
兄「うおっ」
妹397「きゃっ」
兄「どきどき」
妹398「どきどき」
―兄部屋・深夜―
トン……トン……
妹399「兄ちゃん? 起きてる?」
妹400「……お邪魔しまーす」
妹401「あ、真っ暗。うぅー、寝ちゃった、かな」
妹402「……にいちゃーん、もしもーぉし……」
妹403「……ま、答えるわけないんだけどね」
妹404「んじゃ、すみませんが、お布団の中……お邪魔しまーす」
ごそごそ……。
妹405「っあぁ~、あ゛っだが~。っと、つい親父臭いコメントを。もぞもぞ……」
妹406「えっと、兄ちゃんの右腕っ、兄ちゃんの右腕っ。っおーあったあった。ふひひ、ぎゅーっ」
妹407「はぁ……くんかくんか。んん~、兄ちゃんの匂いぃ、んふふっ♪」
妹408「起きちゃった……かな。ま、起きても起きなくても、関係ないんだけどね。兄ちゃんは、あたしと口利かないもん」
妹409「……ちょっと、愚痴っちゃうね」
妹410「一週間、結構真剣に兄ちゃんに代わる依存対象を探してみたんだよ。んま、全部みっちゃんの情報なんだけど」
妹411「サッカー部のチャラ男とか、野球部の堅物青少年とか、バスケ部の厳つい奴とか。ちらーっと耳に入った人たちに、ぱらーっと話しかけてみたよ」
妹412「するとね、色々気付くことがあったんだ」
妹413「あたし、男の子と話すの苦手みたい」
妹414「男子と女子って、それぞれグループみたいなのあるでしょ? あたしがいるところって、どちらかというとのほほんとしたグループでさ、男の匂いが全然しない子達ばかりなの」
妹415「だから、同級生の男の子に話しかけるなんてこと、今までなくてさー」
妹416「兄ちゃんのクラスに行くときに話しかける男の人がいるんだけどさ、その人に話しかけるときいっつも緊張しちゃってね」
妹417「てっきり、年上の男の人だから緊張してるのかとばかり思ってた」
妹418「なんなんだろうね……」
妹419「あたしの男分は、兄ちゃんで摂取してたのかもね」
妹420「ホント、兄ちゃんのお陰で色々気付かされてばかりだよ……」
妹421「こんなに、兄ちゃんに依存してたなんてなぁ……」
ぎゅうっ。
↓ここからは、距離が狭まったので声のボリュームを幾分小さめにお願いします。もしくはハスキーな感じで。
妹422「ごめんね。あんな約束したばっかりだけど……、兄ちゃんに依存しないって言ったばかりだけど……」
妹423「少しだけ、家にいるときだけでいいから……」
妹424「もう少しだけ、兄ちゃんに依存させて……?」
妹425「急になんて、やっぱ無理だよ……」
妹426「あたしは生まれたときから、兄ちゃんの妹やってるんだよ?」
妹427「生まれたときからそこにいたのは、誰?」
妹428「妹のあたしを、褒めて、叱って、慰めて、引っ張っていってくれたのは、どこの誰?」
妹429「誰がいたから、こんな妹が出来上がったの?」
妹430「ふふっ。わかってるのかー? おーい……」
妹431「……」
妹432「あたし、ね。もしかしたら……って思うの」
妹433「もしかしたら、っていう感情が、胸を渦巻いてるの」
妹434「さっきのホラー映画見てたときに気付いたんだー……」
妹435「でもね、これは勘違いかもしんない」
妹436「なぜならー、ホラー映画を見てたときだからでーす……」
妹437「ふふっ、どういう意味か、兄ちゃんには解るかなー?」
妹438「これは、兄ちゃんへの宿題でーす」
妹439「あたしに、新しい依存対象が現れるまでの、宿題」
妹440「……できれば、早く答えてほしい、かな?」
妹441「じゃないと……」
妹442「…………」
妹443「……うん。もう、寝るね?」
妹444「久しぶりに、兄ちゃんの匂いに包まれちゃったから、凄く心が安らいで……すぐ、眠くなっちゃった……」
妹445「へへっ。今晩も、あたしの独り言Showをご視聴いただき、誠にありがとうございましたー……」
妹446「それじゃ、兄ちゃん……」
妹447「…………おやすみ」
妹448「……ちゅ」
妹449「へへっ……ん、んん~……」
妹450「すぅ……すぅ……ん、ん……すぅ……」