Track 4

第四話

「休日、ウィンドウショッピングに駆り出されてもアプローチ」 ―ショッピングモール・昼過ぎ― 作戦:No.07 「友達以上らしさを出してみる」 【やつこ】 「わーっ。ショッピングモールだーっ。ふふっ、ここに  来るのも久しぶりだなー」 【男】 「そうなのか?」 【やつこ】 「そうなのか、って……。遊ぶ場所と言ったら、いつも  私の部屋か、君の部屋だけだよ?」 【男】 「いや、他の友人と遊ぶことだってあるだろ」 【やつこ】 「他の人と? んー、そだね。みっちゃんとここで遊ぶ  ことはあるかな。一番の女友達だからねー」 【男】 「ほれみろ」 【やつこ】 「でも、君と二人で来るのは久しぶりだよ?」 【男】 「……そうだな」 【やつこ】 「いつ振りだっけ。前に遊びに来たときは、まだあそこ  に銀行なんて建ってなかったよね?  電気屋も……――電気屋!?」 【やつこ】 「あれ!? いつの間にこんなのが建ってるの!?  うわーっ! 近代化してるねっ」 【男】 「俺は噂で聞いていたが、本当に建っているとは……」 【やつこ】 「えっ、知ってたの? なにさー、教えてくれてもいい  じゃーん。私だけ取り残された気分だよー」 【男】 「たまたまね、たまたま」 【やつこ】 「まぁいっか。  ……それで、ここに何しに来たんだっけ?」 【男】 「暇だから来たんじゃないか?」 【やつこ】 「暇だから来た? そうだっけ? そんな理由で……?」 【男】 「おい、言い出しっぺ」 【やつこ】 「む……。確かに、私からそんなことを言ったような気  がするよ……」 【やつこ】 「まっ、来ちゃったからにはしょうがないよね。色々見  て回ろうよ! さ、こっちこっち!」 【男】 「(簡単に人の手を取っちゃうのよねーこの子)」 移動中… 【やつこ】 「……」タラー 【男】 「涎よだれ」 【やつこ】 「おぉっと。涎よだれ……ふきふき」 【やつこ】 「……やっぱり、我慢できないよ。ウィンドウショッピ  ングって拷問だったんだね。こう、舌の奥が乾いてく  る感覚がするの。つまり……、食べたい」 【男】 「お前、友人と来るときはどうしてるんだ?」 【やつこ】 「ん。みっちゃんと来るときは、どうしてか食べ物屋さ  んが目に入ってこないんだよ。気になってみっちゃん  に訊いてみたら……」 【やつこ】 「“お食事処は通らないようにしてるから”、って言って  た。へへ、色々と迷惑かけてるみたい」 【男】 「そういうことか……」 【やつこ】 「……迷惑、かけても……いい、かな? ……いいよね。  私の幼馴染だもん。慣れっこだよね?」 【男】 「あたぼうよ」 【やつこ】 「ん、さっすがっ! やっぱ君と来て正解だったよっ」 【男】 「逆にそわそわされるほうが迷惑だ」 【やつこ】 「……そうだね。そわそわされるほうが逆に迷惑だよね。  うん、もう遠慮しない。ウィンドウショッピングは止  め! 食べることにするよっ」 たたた… 【やつこ】 「すいませーん! クリームonプリンと、チョコバナナ  Mixをつずつ!」 たたた… 【やつこ】 「ふぅ……。お待たせー。はい、これ。クレープ」 【男】 「なにこれ」 【やつこ】 「ふふっ。私のおごりだよ? いつも部屋でお菓子貰っ  てるし、そのお返し。ささ、遠慮せずに食べていいよ?」 【男】 「そうか。じゃあ、まぁいただくことにする」 【やつこ】 「うんっ。……あ、いちおう私のおごりってことで、勝  手に私の好きなもの選んじゃったんだけど……。他に  食べたいのがあったら、言ってね?」 【男】 「きにすんな」 【やつこ】 「それじゃ早速……。いただきまーす。あむっ」 【男】 「どうだ?」 【やつこ】 「んむんむんむ……。ん~~っ、美味(びみ)っ!  おいしーよーぉぉ……」 【男】 「恍惚としてる……」 【やつこ】 「プリンが、くりーむが、んむもぐ……、渾然一体とし  てて、クレープの軟らかい生地がむぐもぐ、それを包  みこんでんぐもぐ」 【男】 「どっちかにしろ」 【やつこ】 「ん、わかった。食べるのに集中するね。もぐもぐもぐ  もぐ」 【男】 「まーたコミュニケーション放棄ですか、そうですか」 【やつこ】 「あっ(発見)。ん……ちゅる、じゅるるるるるるるr」 【男】 「おーいおいおい!!??!!」 【やつこ】 「んぅ? どうしたの?」 【男】 「音! 音立てて啜るなってーの!!」 【やつこ】 「音を立てるな……? でも、こうしないとプリンがこ  ぼれちゃうよぉ。そのまま食べようとすると……んむ。  ほあ、みへ?」 【男】 「あー、クリームシュー食べるときのアレみたいになっ  てるな」 【やつこ】 「そう! そうだよ! クリームシューを食べるときに  端っこからクリームがにゅるって出てくるみたいね、  これも気を付けないと口の周りがクリームだらけに……」 【男】 「もうなってるがな」 【やつこ】 「へ? もう付いてる? うそ、どこ? どこどこ?」 【男】 「ここ」 【やつこ】 「んにゅ、んん~……。へへ、また取ってもらっちゃっ  た。悪いねぇ」 【男】 「だらしねーな」あーん 【やつこ】 「――あっ。うあああっ、ストップ! 取ったの食べち  ゃだめ!」 【男】 「おぉう?」 【やつこ】 「あのね? いくら、取ったのを食べるのが嫌じゃない  からってね、あの……さすがに、そういうことされる  と、恥ずかしいというか……」 【男】 「ほーん?」にやにや 【やつこ】 「んむむ……。と、とにかくっ、そんなことしたら……  駄目なんだよ?」 【男】 「そうか。じゃあこれはどうするんだ?」指をくいくい 【やつこ】 「ん。だからこれは、私が食べます」 【男】 「ひょ?」 【やつこ】 「いただきまー……ぁむ」 【男】 「!?」 【やつこ】 「ん……、ちゅ、ちゅぴ……、ちゅ、ちゅっ、ちゅるっ」 【男】 「Oh……」 【男】 「じゃなくてっ! ちょっと待った!!」 【やつこ】 「んぅ? んぁ……、どうしたの? まだちょこっとだ  け残ってるよ……」 【男】 「お前、こんなことして恥ずかしくないのか!」 【やつこ】 「んぐっ、そりゃあ恥ずかしいけど……。食べてもらう  のは悪いし、やっぱり、私が食べなきゃ……」 【男】 「理屈がわからん。お前の言う理屈がさっぱりわからん」 【やつこ】 「も、も、……もうちょこっとだけの我慢だよ……?  ぁ……む。ん、ちゅ、ちゅる……、ちうちう、ちうー」 【男】 「……」 【男】 「ほい」指くいー 【やつこ】 「ん、――んんっ! なっ、なんれ、ゆびうごかふの?」 【男】 「いや……なんとなく」 【男】 「(他人の舌を触る機会なんてそうそうないからなあ)」 【やつこ】 「なんほなく? ん。れも……、ちゅる、ちゅっちゅっ、  ……うまく、なめられなっ、ん、ちゅるるる」 【男】 「ヴォースゲー」 【やつこ】 「ん、んんぅ、んもぉ……。ちう、ちうちう……、ちゅ、  ちゅるるー……ん、ちゅっ。ぷぁ」 【やつこ】 「うん、綺麗になった。待ってて、いまハンカチ出すか  ら」 ごそごそ 【やつこ】 「まさか、二度も食べようとするなんて思わなかったよ  ー。今度からは、拭いてくれるにしても、ティッシュ  かなにかで拭くこと。指で拭いたら駄目。わかった?」 【男】 「いや、そんなことよりも」 【やつこ】 「ん? そんなことよりも……?」ふきふき 【男】 「俺が何を言いたいのかわかるか?」 【やつこ】 「んん? んー……と。あー、ごちそうさまでした……?」 【男】 「そうじゃないだろ」 【やつこ】 「へへ、そうじゃないかぁ。……ま、そうだろうと思っ  てたよ」ふきふき 【やつこ】 「うん、拭けたっ。はい、指お返しするね」 【男】 「お前ってさ。結構大胆なところあるよな」 【やつこ】 「へ? 突然どうしたの? 大胆だなーって……。  人のほっぺに付いてたものを食べようとする君のほう  が大胆だよお」 【男】 「いや、それはない」 【やつこ】 「君のしようとしたことと比べたら、私のしたことなん  て大したことじゃないよ」 【男】 「お前の感性がわからん」 【やつこ】 「感性がわからない? ん、そうかな……。  そんなことないよー。あむ、んむんむむむ」 【やつこ】 「ちゅるるるるうるるるちゅっちゅううう」 【男】 「こら!!!」 【やつこ】 「あう。ごめんなさい」 ?