Track 6

第六話

「放課後のひと時」 ―幼宅・夕方― 作戦:No.10 「過剰なまでのボディタッチ」 【やつこ】 「自分でも、ちょこっと子供っぽいなって思うんだけど  ……。お菓子を手で食べたときに、指にちょこっとだ  けお菓子が付くでしょ?」 【男】 「おう」 【やつこ】 「それを“ちゅっ”って舐め取るのが……、へへっ。好  きなんだよねー。なんでかな? お行儀が悪いのはわ  かってるんだけど、ついやっちゃうんだよねえ」 【男】 「それは口唇欲求じゃねーかな」 【やつこ】 「あ、でもでも、人前ではさすがにやらないよ? 気が  緩んじゃうとやっちゃうけど……。もう子供じゃない  からね」 【やつこ】 「あ、最後の一本、貰ってもいい?」 【男】 「おう。食べれ食べれ」 【やつこ】 「んー、ありがとー。あむっ。んむんむ……。ん~っ♪  ごひほーさまっ! ん……ちゅ」 【やつこ】 「あ……、へへ。やっちゃった」 【男】 「(なんだこの生物)」 【やつこ】 「あ、そだ。ん……(座り直し)、ねね。手、見せて?」 【男】 「いいけど」すっ 【やつこ】 「ん、どもどもー。んんぅ……(観察)、感触が違う。男  の子の手だぁ」 【男】 「な、なんだなんだ?」 【やつこ】 「あぁ、ごめんごめん。見たかったのは別のとこ。……  爪のね、根元の部分。白いところがあるでしょ?」 【男】 「おう」 【やつこ】 「みっちゃんに教えてもらったんだけど、この白い部分  って、指先をよく使う人ほど、大きいんだってー」 【やつこ】 「それでね? その大きさで、利き手がどっちかもわか  るんだーって言ってた」 【男】 「ほーん」 【やつこ】 「白いのがより大きいほうが利き手なんだって。ふふ、  さーてさて、ワトソン君の利き手はどっちかな~?」 【男】 「利き手くらい知ってるだろ」 【やつこ】 「あはは、そだね。利き手くらい知ってるー。でも、君  のもちゃんと右と左で大きさが違うのか、気になって」 【やつこ】 「んん~……(観察)。おぉっ、やっぱり違う。右と左で  大きさが違うねー。うんー、でも、左のほうが大きく  ないかな?」 【男】 「あー……、ほんとだな」 【やつこ】 「……まさか、右手に浮気して、左手を使っているな?」 【男】 「そっ、それってどういうことだよ!」 【やつこ】 「えっ? えっ? どういうことって……。あの、利き  手よりも、逆のほうをよく使うのかなーって」 【やつこ】 「ペンとかは右手だけど、リモコンとか物を持ったりす  るときは左手なのかなーって」 【男】 「あぁ、そっか。……そうだよな」 【男】 「(やべー、右手が恋人じゃなくて、左手が恋人なのがバ  レたのかと思ったわー)」 【やつこ】 「どうしたの? 引きつった笑い方してるけど」 【男】 「なんでもない、気にするな」 【やつこ】 「うん……? まぁ、気にするなっていうなら、気にし  ないけど……」 【男】 「そういえば、お前の爪はどうなってるんだ?」 【やつこ】 「うん? 私の爪? へへ、いいよ。見てみてー」 【男】 「ふむ」 【やつこ】 「……どう? どう? みんなより白い部分が多いんだ  よ。お菓子作りで、手作業する機会が多いからかな?」 【男】 「ほうほう」 【やつこ】 「……。なんでさっきから、指先ぷにぷにしてるの?」 【男】 「女の子の手だなと思って」 【やつこ】 「ぅ。そりゃ、私だって女の子だもん。女の子の手して  ても、おかしくないでしょ?」 【男】 「そうだな」 【やつこ】 「ん……。あー……、それ気持ちいいかもー……。指を  くりくりされるの……きもちー……。足ツボならぬ、  指ツボって言ったところかなーぁ」 【男】 「そうか」 【やつこ】 「ん……、ん。……はぁぁ……。……、んー……ん」 【やつこ】 「ん、そこ……。指の付け根、いいかもー……。はぁぁ  ……。へへ、なんか、ぼーっとしちゃうね」 【男】 「ふーん」 【やつこ】 「ん……。あ、手の平もやってくれるの……? へへ、  じゃあお願いするねー……」 【やつこ】 「……うん。もうちょこっと強くてもいいかなー……。  ん……、ぁ……。うん、そんな感じー……ふぁぁー……」 【男】 「……軟らかいのな」 【やつこ】 「へ? へへ、軟らかい? ぷにぷにしてる? ん……、  まぁ、君の手と比べたら、そうかもー」 【男】 「お前は全体的にぷにぷにしてそうだけどな」 【やつこ】 「む。それってどういう意味ー? 全体的にぷにぷにし  てそうって……。そ、そんなに、太ってないもん」 【男】 「ほう……」 【やつこ】 「……な、なに? 悪い顔してるよ? う、うぅ?  どうして、近付いてくるのかな……?」 【男】 「どうどう」 【やつこ】 「んっ……。お腹、……触ってどうす――んぃっ!  摘まんだ! いまお腹摘まんだっ!」 【男】 「ほれ、やっぱり」 【やつこ】 「ほ、“ほら”、じゃないよっ! どうしてお腹摘まむの  さっ! うぅ……、違うんだよ。太ってるからじゃな  くて……これは、……お、女の子はみんなこうなのっ!」 【やつこ】 「ほら、女の子はー、成長すると体全体がふっくらして  くるーって保健の教科書に書いてたでしょ?  そそそーゆうものなの」 【男】 「ふーん」 【やつこ】 「んっ、ちょ、ちょっと……むにむにしないで……。う  ぅ……恥ずかしい……」 【やつこ】 「……ま、……ま、まぁお菓子好きだし? ちょこっと  だけ、お肉は付いちゃってる、かも……だけど」 【男】 「ちょっとだけ?」 【やつこ】 「う、うん。そう。ちょこっとだけ……」 【男】 「……」 【やつこ】 「……な、なに? じっと見つめて……。どうしたの?」 【男】 「……」 【やつこ】 「んんぅ……なにか言ってよぉ」 【男】 「……」 【やつこ】 「んっ。ぁ……、また、ほっぺ触ってぇ……。んにゅ…  …、こねこねしないでよぉ。んんー、伸びるからぁ」 【男】 「……」 【やつこ】 「んっ、ん……。だからって、撫でるのは……、うぅ。  恥ずかしい……。もー、顔真っ赤だよお……」 【男】 「……」 【やつこ】 「……。ん、……。どうしたの……? ……えーと。あ、  もしかして、またほっぺに何かついてた?」 【男】 「……」 【やつこ】 「……うぅ。だんまりだよー。んん……、そんな、優し  く撫でて……。ぅぅ……、もー……」 【男】 「……」 【やつこ】 「……あの、あのあの。なんで、じっと見てるの……?  そんなに見つめられると、その……ね。むずむずする  というか……なんというか……。へ、へへへ。へへ」 【男】 「……」 【やつこ】 「んっ……。今度は、くちびる……? そんなとこ触っ  て……うぅ、いまちょこっとカサカサしてるかも……。  だから……その……」 【男】 「……」 【やつこ】 「ん……? どうしたの……? なんで、顔……、近――」 こつんっ 【やつこ】 「――っ」 【男】 「……」 【やつこ】 「…………。えっ……と……」 【やつこ】 「お、でこ……くっついちゃってるね……」 【やつこ】 「……鼻も、当たって……ぅ……」 【やつこ】 「……。えと……、えと、えと……」 【やつこ】 「へ、へへへ。えへへぇ」にへら 【男】 「――っ!!」がばっ 【やつこ】 「ふあっ」 ぎゅう 【やつこ】 「っ、ぁ……。……ど、どうしたの? 抱き締めて……。  ん……」 【男】 「……可愛かったから」 【やつこ】 「うぇっ! か、可愛かった、から……。う、うん……  そか、そか……。それなら、仕方ない、ね……。うん  ……」 【やつこ】 「……。ね……? 私も、抱き締めても……い?」 【男】 「ぁ……あぁ」 【やつこ】 「ん。……じゃあ、失礼して……。ぎゅぅー……」 ぎゅう 【やつこ】 「ん、はぁー……。んんぅ……、ん……。ふぁー……。  ふふ、……なんだか、安心するー……」 【やつこ】 「すぅー……っ、はぁぁー……。ふふ、君の匂い……。  君の……、香り……」 【やつこ】 「すきな……。だいすきな、におい……。んんっ(きつ  く抱き締める)……、はぁー……っ」 【男】 「……お、お嫁さんごっこの、一つだ」 【やつこ】 「うんー……? へへ、そか。お嫁さんごっこの、  延長、かー……」 【やつこ】 「うん……。うん……。お嫁さんも……、悪くはない、  かもー……。んん……」 ?