第八話
「勉強会をしよう」
―幼宅・昼過ぎ―
作戦:No.11
「大好物の手土産」
がちゃ
【やつこ】
「はいどうぞー。あっ、この一週間掃除してないから、
ちょこっと散らかってるけど……。あぁっ、クッショ
ンくっしょん……。ん、はい。これ敷いて座って?」
【男】
「さんきゅ」
【やつこ】
「うん。……それじゃぁ、私はここー」ぽすっ
【やつこ】
「へへっ。休日に来てもらって悪いねぇ。……さすがに、
一緒に勉強しようってだけで呼ぶのは、迷惑かなって
思ったんだけど」
【男】
「別にいいさ」
【やつこ】
「ぁ……。そか。ふふ、勉強熱心なのだな、ワトソン君
は」
【男】
「それだけじゃないぞ」
【やつこ】
「ん? ……あ、そういえば、さっきからその手提げ袋
が気になってたんだぁ。入ってるのは勉強道具?」
【男】
「なんの」ごそっ
【やつこ】
「あっ! わあぁぁっ! シフォンケーキ! シフォン
ケーキじゃん! んん~っ、君の作るシフォンケーキ、
美味しいから大好きなんだぁっ」
【男】
「そうだろうよそうだろうよ」
【やつこ】
「むぅ。さすが、私の幼馴染。なにをすれば私が喜ぶか、
よく知っているな。あなどれん」
【男】
「恐れ敬うがいい」ふふん
【やつこ】
「あ、そだ。お返しに、君にプレゼント贈るね」
【男】
「お?」
【やつこ】
「んっ、と」にじり寄り
【やつこ】
「へへ……。ありがとね? ……ちゅ」
【男】
「!?」
【やつこ】
「あ、あはは。びっくりしちゃったかな」
【男】
「そ、そりゃっ、おまっ、」
【やつこ】
「えと、みっちゃんがね? 今度嬉しいことしてもらっ
たら、こうしてやりなさいって。きっと喜ぶからって」
【男】
「(あの女郎……!!)」
【やつこ】
「……嬉し、かった?」
【男】
「……」
【やつこ】
「……、どうしたの?」
【男】
「……もっと」
【やつこ】
「へっ」
【やつこ】
「も、もももっと!? あ、ぅ……。ぅ、うん。わかっ
た。……もっかい、ほっぺにちゅー、するね?」
【やつこ】
「……。じっと、しててね? ……いくよ……。っ、…
…ちゅ」
【やつこ】
「――はいっ! おしまいっ! へへ、へ。ほ、頬っぺ
たでも、さすがに何度もすると、恥ずかしいね」
【男】
「……」
【やつこ】
「あ、あれ。固まっちゃった。……おーい。どしたー?」
【男】
「もっと」
【やつこ】
「へ? もっ、と……てぇええっ!? もっとって、あ
の、ぅぅ……。ほっぺのちゅーを、もっかいしてほし
いってこと……?」
【男】
「(こくこく)」
【やつこ】
「うぅ……。そんなぁ……。だって、もう二回もしたの
に……。そ、それに、何回もしてあげたんじゃ、あり
がたみが薄れちゃわないかな?」
【男】
「そんなことは断じてない!!」
【やつこ】
「う、ぐっ……。断じてない、ですか……。そうですか
……」
【やつこ】
「……」もじもじ
【やつこ】
「そ、それなら……。もっかいだけ……。
最後だよっ!? これで最後だからね……?」
【男】
「(こくこく)」
【やつこ】
「うぅ、首振り人形だよー……。ホントにわかってるの
かなぁ……」
【やつこ】
「……、じゃぁ、するね? ……すぅ、はぁ……。
んっ……(逡巡)、……ちゅっ」
【やつこ】
「……。わっ、唾が付いちゃった。ごしごし……。ん、
取れた」
【やつこ】
「……はい、おしまいっ。もうしないかんね。シフォン
ケーキのお礼なんだから、これ以上は払い戻しが必要
だよ」
【男】
「……」
【やつこ】
「……ん? ……なに、じっと人の顔みて」
【男】
「……」がしっ
【やつこ】
「っ。なになに。肩掴んで……、どうしたの? 顔、近
――」
こつんっ
【やつこ】
「っ」
【男】
「……」
【やつこ】
「……、っ……ぁ。へ、へへへ。また、おでこ、くっつ
いちゃってるね」
【やつこ】
「どう、したの? ん、っ……、鼻も……、はぁ……。
ぅ……、ん……」
【男】
「……」
【やつこ】
「ん、ん……、はぁ……っ、ごく……、ふぅっ……」
【男】
「(そろそろか)」
すっ
【やつこ】
「あっ。離れちゃうの……?」
【男】
「ん?」
【やつこ】
「……、えと、んん……。も、もっと、ちょこっとだけ、
続けて欲しいなー……なんてっ」
【男】
「……は」
【やつこ】
「ほ、ほら。さっきは君の我が儘聞いたし、今度は、私
の番……。私の我が儘、聞いてほしいかなー……、っ
て……」
【男】
「(おいおい、どういうことだこれ。どういうことだこれ)」
【やつこ】
「……。だ、……だめ?」
【男】
「い、いいぞう」
【やつこ】
「あっ……。へへ、ありがと。じゃあ、早速……お願い。
きて?」
【男】
「うむむ……」
すっ
【やつこ】
「ふあ、っ……。へへ、また、この距離だね」
【男】
「……そうだな」
【やつこ】
「……。息……かかっちゃう、ね」
【男】
「……そう、だな」
【やつこ】
「っ……、ふぅ……。……っ、ごく。ぁ……」
【やつこ】
「あ、あのさっ。いま言うのもおかしいと思うんだけど。
えーっと、ん、んんっ」
【男】
「ん……?」
【やつこ】
「…………(呼吸を整えて)、大好きだよ」
【男】
「へ」
【やつこ】
「っ、変だよね? 昔っからずっと、君のことは大好き
って言ってるのに……。いま言うなんて、おかしいよ
ね」
【やつこ】
「……でも。……こう、好きだーっていう気持ちが、こ
み上げてきたというか……。んん、とにかくっ、言わ
なきゃいけないような、そんな、気持ちに……」
【男】
「……」
【やつこ】
「あ、あはは。気持ち悪いよね? こんな、突然……。
ごめんね? あっ、もう退くから」
【男】
「っ!!」がばっ
【やつこ】
「――ん、むっ!! んっ、んんっ!! ん、んーっ、
ん……ちゅっ、ちゅ、ちゅっ……、んふっ」
【やつこ】
「ん、ちゅっ……、ちゅるっ、ちゅっ、ちゅぴ……。
んはっ、ぁ、むっ、んんぅ……、ちゅっ、ちゅぅっ…
…ちゅっちゅ、ちうちう……、んっ……ぷぁ」
【やつこ】
「はぁ……はぁ……、っ、はぁ……っ。く、くちに……
ちゅー、しちゃった。されちゃっ、た、んむっ」
【やつこ】
「ちゅ、ちゅぅ、ちゅっ……、んふーっ、んっ、ちゅぷ、
ちゅっ、じゅる、じゅるるっ……、んんぅっ、ちゅる
るっ、ちゅっ……んっ、ちゅ、ぷぁ」
【やつこ】
「はぁ……はぁ……、んっ、んぅ……ふぁ……。ちゅー
って、すごいね……。舌も絡めて……、こんなに、ど
きどきするんだー……」
【男】
「っ、す、すまんっ!」
【やつこ】
「うん? くすっ、どうして謝るの? 別に、嫌じゃな
かったよ? ちょこっと、びっくりしたけど……。へ
へ」
【男】
「そっ、そうなのか? いや、そういう問題じゃなくっ!」
【男】
「(アプローチするにしても流石にこれはやりすぎだ
ろ!!)」
【やつこ】
「ん……。ホントに、嫌じゃなかったよ? むしろ、ど
きどきして……あ、この場合のどきどきは、恥ずかし
さもあるんだけど、気持ちいいどきどきというかっ」
【やつこ】
「ホントのほんとに、嫌じゃなかったよ? だから、そ
んな謝らないでよ。ね?」
【男】
「い、いや、だが……うーん」
【やつこ】
「……、信じられない? む……、疑り深いなぁ。……
じゃあ、証拠見せたげる」
【男】
「証拠?」
【やつこ】
「うん。証拠……。じっとしてて……。ぁ……ん、ちゅ
っ」
【男】
「っ!?」
【やつこ】
「っぷぁ……。へへ、自分から口にちゅーするのって、
やっぱり恥ずかしいね。ほっぺにするのよりも、断然
こっちのほうが、緊張しちゃったよ」
【男】
「お、おま、おまんまんま」
【やつこ】
「……。これで、証拠になったかな?」
【男】
「っ。そっ、そうだなー」
【やつこ】
「そっかー。よかったよー」
【男】
「……」
【やつこ】
「…………。さっ、さてさてっ! それじゃ勉強っ!
勉強しなきゃねっ! うんっ」
【男】
「そそそそそうだな」
【やつこ】
「っ……、……。っ」
【男】
「……」
【やつこ】
「っ……。…………(ぼー」
【男】
「(なんだか視線を感じるような)」
【男】
「(ちらっ)」
【やつこ】
「あ」
【やつこ】
「え、えぇえと」
【やつこ】
「へ、へへへ。えへー」にへら
【男】
「(実家の御母ちゃん。息子はもう駄目かもしれません)」
?