Track 4

第4話

―リビング・朝― 妹317「はぁ……。昨日のアレ……夢じゃないわよね。パンツにシミ付いちゃってたし……。んんぅ……困った」 妹318「けど、顔に出さないようにしないと。いつも通り、笑顔で、兄さんと接しないと駄目ね。     せっかく声を堪えて起こさないようにしてあげたっていうのに、もし勘繰られでもしたら堪え損だわ」 妹319「んっ。笑顔笑顔……。いつも通り……いつも通り……」 がちゃ 妹320「あ、に、兄さん。おは(上擦る)……、おはよう」 兄 「……? あぁ、おはよう」 妹321「さぁさ、ご飯はとっくに出来てるんだから、ちゃっちゃと食べちゃって」 兄 「……お前、風邪でも引いたか?」 妹322「え? べ、別に……風邪気味でもなんでもないけど。顔が赤い……? ん、なんでもないから」 妹323「(うわー。表情に出てないのに顔に出てるってことね。馬鹿、赤面症の馬鹿)」 兄 「顔が赤いぞ。ちょっとおでこ出してみ」 妹324「いやっ、熱とか計らなくていいから! なんでもないなんでもないっ!」 兄 「あー、そうか?」 妹325「うん、その気持ちだけ貰っておく。ありがとね、兄さん」 兄 「きにすんな」 妹326「……そういえば、昨日は良く眠れた?」 兄 「ん、お陰様で」 妹327「……、そう。でも、やっぱり寝言いってたわよ? 兄さんのピロートーク作戦とやらは効果なしね。でも目の付け所はいいと思うわ。     あとは確実性に欠けるところをどうにかするだけね」 兄 「(罪悪感に苛まれる)」 妹328「あと……、兄さん」 兄 「ん」 妹329「私が隣で寝ると、その……やっぱり、ドキドキするの?」 兄 「は? なんで?」 妹330「だって、兄さんドーテーだし。初心な男の子だから。一緒のベッドに寝られると……やっぱり、興奮しちゃうんじゃないかって思って」 兄 「いや、いやいやいや。なんでそうなる」 妹331「なんでそうなる、って……言われてもね。……最近、なんだか一緒に寝たくないみたいな言動を取ってるから。     そんな態度を取られる心当たりなんて、私にはないから、きっと原因は兄さんのほうにある」 妹332「しかも、昨晩に……」 妹333「(あんな……えっちな……)」 兄 「昨晩に?」 妹334「……」 兄 「妹?」 妹335「とにかく。兄さんは、やっぱり……私が隣にいると、ドキドキする? ドキドキするから、一緒に寝たく、ないの……?」 兄 「いや、別にドキドキもしないし、一緒に寝るなというのはお前の歳ではおかしいからだろ」 妹336「別にドキドキもしないし、一緒に寝るなと言うのは、私の歳ではもう一人で寝るものだから……?」 妹337「……建前のくせに」 兄 「へ」 妹338「ちょっとそのまま突っ立ってて」 兄 「おう」 ととと…… ぼふっ 妹339「ん、ぎゅーっと」 兄 「うおっ」 妹340「……どう? 妹に抱きしめられて、ドキドキする?」 兄 「制服に皺が付くぞ」 妹341「制服に皺が付く? む……、どこを気にしているの……。     大丈夫よ、制服はお母さんが洗ってくれた奴だから、どこぞのクリーニング屋に出すよりも糊が効いてて皺なんか付かないわ」 妹342「それよりも……ほら、ドキドキしない? こんな近くに女の子がいて、抱きつかれると、やっぱり……興奮する?」 兄 「だからしないってーのに」 妹343「しない? ……おかしいわね。ドーテーの兄さんが、こんなことされてドキドキしないはずが……。じゃなきゃ、昨日のあれは一体なんだって……」 兄 「やっぱお前今日おかしいぞ。熱計るぞー」 妹344「え? なに、熱計る――ふは」 ぴと 妹345「兄、ぁ、ぅぁ、ぃっ、兄さんっ」 兄 「ん、どうした」 妹346「うわっ、うわああっ!」ばっ 兄 「うお」 妹347「いっ、いい今どきっ、額をくっ付けて体温計る馬鹿がどこにいるのよ!」 兄 「なんでそんなに焦ってるんだ」 妹348「あぁあ焦ってないっ! 非常識だって言ってるのよ! 原始人じゃないんだから、もっと機械を使うとか、もっと、……もっとぉっ! いい計り方があるでしょ!?」 兄 「なあ、お前さ」 妹349「な、なによ……?」 兄 「異性が近くにいてドキドキするのって、お前のほうだろ」 妹350「ドキドキしてるのは、私のほう……?」 妹351「……」 妹352「だって、……兄さんが、あんなことするから……」 兄 「おでこくっ付けたくらいで大層な」 妹353「おでこのことじゃなくてっ! 昨日の……、~~っ! もういいわっ。どうせ覚えてないんでしょ。馬鹿。さっさとご飯食べて」 兄 「お前から言い出したことだろうが」ぶつぶつ 妹354「あ。ほら、背筋伸ばして。……そう。あーぁー、大層な寝癖作ってきたわね。一体どういう寝方したらこんな寝癖を生成できるのかしら」 兄 「隣で寝てるんだったら、どうやって出来るのか解るんじゃないのか」 妹355「え? んもぅ、隣で寝ているからって兄さんがどうやって寝癖をこしらえてるのかーなんて解らないわよ。まぁ、次に一緒に寝るとき気にかけてみるわ」 兄 「まだ一緒に寝るとか言うのか」 妹356「まだ一緒に寝たいのかって……なに。そんなに私と一緒に寝たくない?」 兄 「いや、嫌にならないのか?」 妹357「嫌にならないのかって? 兄さんと寝て、私が? ふふっ、そんなことないわ。確かに、最近の兄さんはちょっと……、ぁー、寝言が多いけど。我慢できるわ」 兄 「我慢せんでもええんやで」 妹358「我慢せずに部屋に戻れ? はぁ……。はいはい。さっさと寝言いわずに済む努力をしなさい。将来、兄さんの奥さんが不憫で仕方ないわ」 妹359「(……兄さんの、奥さんか……)」 妹360「……兄さんは、どんな人と結婚するのかしら」 兄 「ん?」 妹361「あっ、こっち向かない! 寝癖直してるから。……ねえ。兄さんって、好きな人とかいるの?」 兄 「お前は好きだぞ」 妹362「えっ。お前は好きだぞ、て。そんなの知ってる。そういうことを訊いてるんじゃない」 兄 「知ってるって?」 妹363「あ、嘘。知らない知らない。……なんでもないから。もう、じっとしてて」 兄 「あーい」 妹364「……はぁ。気遣うのも疲れる」