Track 2

02

痴漢されるのが屈辱的だ、と思うのは、ずっと後になってからになる。 されている時は、ただ単に熱いとか痛いとか、怖いとか……自分のことを強気だと思っていた私でさえ、そうだった。 終わったり逃げ出せた時は開放感で爽快ささえあるのだけれど……今にして思えば、非現実的な感じが強い。 私は本当に痴漢されたのだろうか。 お尻をさわられ、胸を揉まれ、股間までも? これまで彼氏がいたことのない私は、男の人に体をさわられたことはない。 お父さんと一緒にお風呂に入ったのでさえ小学三年生までで、以来、不用意にふれたりふれられたことはない。 もしかしたら、あの痴漢は私の妄想だったのだろうか。 私にはそんなおかしな欲望があった? もちろん、そんなハズはない。 あの痴漢が実際のことだったのは、数日後に確認された……。 それが同じ人なのは、直感でわかった。 学校からの帰り道。 どうして私は、同じ電車を使ってしまったのだろう。 少しばかり時間がずれていても、路線と時間帯が同じであれば変わらない。 痴漢は前と同じように腕を回して、乳房を掴みながら私を抱きすくめた。 前回、同じようにしても抵抗されなかったからと思っていい気になっているのだろう。 その行為にためらいはなく、 まるで親が子を抱くように堂々としたものだった。 とはいえ痴漢のすること。 親子の間にあるような優しさはどこにもなく、早速淫らな行為に及ぶ。 私は今度こそその手を押さえ、痴漢を捕らえるつもりでいた。 最初の日以来、何度も心の中でシミュレートしてきた。 私を抱きすくめる手を取り、この人痴漢です、と声をあげる。 その想定の通り、私は痴漢の腕に手をかけた……かけようとした。 その瞬間、乳房にふれていた痴漢の手が、制服の中にすべり込んだ。 ゴツゴツとした男の手が、お腹にふれる。 そのくすぐったさに、私は思わず噴き出しそうになってしまった。 けれど、いきなり笑い出すわけにはいかない。 私はまたも周囲の目を気にして、息を潜めてしまった。 どうしてここで笑い出さなかったのか……声を荒げなかったのか。 今になっても悔やむ。 痴漢の手は直ぐさま乳房へと辿り着いた。 ブラジャーごとすくい上げるようにして何度か揉んだかと思うと、ためらうことなく谷間から生の乳房へと潜り込む。 乳首に擦れられて、強い痺れが走った。 指と指の間に乳首が挟まれ、同時に全体を揉み込まれる。 左の乳房だ。 私は痴漢に背後から抱き締められ、乳房を直接さわられていた。 あまりのことに、羞恥や痛みよりも困惑でいっぱいになる。 コリッコリッと乳首が捏ねられ、その度に生まれる刺激で喘ぎが漏れそうになる。 くすぐったさ、快感、痛み、快感……そう、それは確かに快感だった。 甘い痺れ。 官能の刺激。 私は初めて覚える性の快楽に呆然として、痴漢を撃退しなければという思いを忘れてしまった。 大きいと思っていた乳房も、痴漢の手では一掴みだ。 じっくりと、たっぷりと揉み込まれる。 乳首は、指で挟むだけではなく摘まんだりもしてきた。 キュッと掴まれ、伸ばされる。 自分でも驚くほどの痺れが全身を駆け巡り、喘いでしまわないようにと慌てて自ら口を塞ぐ。 もう駄目だった。 自ら声を出さないようにしてしまった私は、痴漢の思うつぼ……されるがままになるのを認めてしまったようなものだ。 背後で痴漢がフッと笑ったのは、気のせいではないだろう。 痴漢はついに左手も使い始めた。 ブラのホックを器用に外し、胸の締め付けをなくす。 そして右の乳房にも手を伸ばした。 強く揉みしだかれ、乳首を捏ねられる。 私は口を押さえて声を殺す。 痴漢は右手で乳房をもてあそびながら、左手でお腹にふれた。 両手で強く抱き締められて密着し、ふれた背中がゾクゾクとする。 その痺れが脳天に達したのを見計らったかのように、 痴漢の左手が股間に触れた。 まずはスカートの上から……けれど、すぐにスカートの中に手を入れられる。 パンツをさわられていた。 パンツの上から、陰毛のあたりを撫で回された。 なけなしの抵抗力を振り絞り、太ももを締める。 これ以上、股間をさわられるワケにはいかない。 このまま指に潜り込まれてしまうと……女性器に当たる。 そんなことが許されるはずがない。 本来、痴漢というのはお尻をさわる程度のものではないのだろうか。 乳房にふれることもあるだろうけど、直接素肌を、生のオッパイを揉まれることなどあるのだろうか……客観的に考える。 けれど、考えたところで仕方がなかった。 現に、この痴漢は私の乳房を揉み、乳首を摘まみ、ついには女性器にまで手を伸ばしている。 当然、パンツの上からだけで済むはずはなかった。 痴漢の手がパンツの中にすべり込み、陰毛を直接くすぐる。 しゃりしゃりと音がするほど捏ねられ、目の前が真っ白になった。 自分でさえ洗う時にしかさわらない場所を、他人にさわられる。 しかも、その指先はすぐに奥まで潜り込んだ……女性器だ。 体がビクンと跳ね上がった。 抱きすくめられていたから体勢を崩すことはない。 痴漢の指先が内ももをくすぐり、股間にふれる。 女性器をさわられた。 オマンコをさわられた。 顔も知らない男の人に、女の大切な部分をさわらせてしまった。 それは精神的、肉体的な衝撃となって私を襲い、同様と混乱と、快楽を誘う。 自分でもこんな風に女性器をさわったことはないから、どこをどうさわられているのか細かくはわからないし、どこからこの刺激が生まれているのかもわからなかった。 それなのに、痺れはある。 乳房からも、乳首からも快楽は生まれ、股間からも甘い官能が湧き上がる。 密着した背中から鼓動が伝わり、熱さが滲んでくる。 頭の後ろから、熱っぽい吐息も聞こえていた。 痴漢も悶えている。 私をさわって快感を得ている。 性の欲望があふれ出し、興奮を抑えきれなくなっていたのだろう……痴漢が私に性欲を覚えているのだ。 そう思った瞬間、強い衝撃が来た。 それは、これまでに感じたことのない強烈な快感だった……次に気が付いた時、私は電車の床に膝をついていて、年配の女性に声をかけられていた。 そこに痴漢の姿はなく、快楽の残滓だけがあった。 ブラは外されていたし、パンツもずり下がっていた。 股間はヌルヌルとしていて気持ち悪く、立ち上がろうにも膝が笑ってしまっていた。 それが絶頂だったのは、後になってから知ることになる。