4-1.眠れないから、少しお話
……ご主人。
まだ、起きていますか?
いえ……少し、眠れなくて。
よかったら、ちょっとだけお話しませんか。
……はい♪ ありがとうございます。
…………。
明日は、お休みですよね。
ご主人、何かご予定はありますか?
……何も? 本当ですか?
では、また一緒にお出かけしませんか。
ご主人と、ご主人の住む街を、もっともっと知りたいです。
……ありがとうございます♪
楽しみが一つ、できました。
今日は、とってもいい夢が見られそうです。ふふっ♪
…………。
……あの。
ご主人は、何か“夢”はありますか?
はい。寝ているときに見る夢ではなく、未来について想うときの夢です。
……いえ。なんとなく。ただ、聞いてみたくなっただけです。
…………。
……なるほど。
それは……とっても素敵ですね。ご主人らしい、良い夢です。本当に、ご立派です……♪
……わたし、ですか?
私は……
少し前までは、平和な暮らしをすることが夢でした。今日のご飯を心配しなくてよくて、明日に怯えなくていい毎日が、憧れでした。
でも、今はもう……全て叶ってしまいました。
というより、想っていた以上に、幸せになってしまいましたから……
これ以上望むのは、何だか、おこがましい気もするんです。
ご主人と、ずぅっと一緒にいられれば、それでいいと、思っています。
ん……。
……違う?
……ふふっ。そう、ですね。
確かに。幸せの限界が、一人一人に決められているわけじゃありませんから……
……もっともっと、幸せを願っても、問題はないのですね。
でも……そうは言っても、難しいですね。
ご主人のお傍にいること以上に幸せな夢が、他にあるとは考えられません。
ふふっ♪
……ご主人の体、本当に、温かいです……。
本当に……ずっとこの中にいられればいいと、思います……。
……はい。もう、不安はありません。
私が望む限り、ご主人のそばにいてもいいんだ、というのは……ちゃんと、分かっていますよ……♪
ご主人……。
……あの。ふと、キスをしたくなってしまったのですが。
よろしいですか?
……はい♪
ん……ちゅう……ちゅっ、ちゅう……ちゅう、れろ……ちゅう……ちゅっ、ちゅう……ちゅっ、ちゅっ、ちゅう……。
は、ぁ……。
……うふふっ♪
大好きです。ご主人……。
心の底から、あなたのことを、愛しています……♪
……でも。
そういえば、一つだけ……夢、というか、目標は、あるかもしれません。
自分で、自分を守れるようになりたいです。
私は今、とっても幸せですけど……でも、ご主人に甘えっぱなしだな、とも思うんです。
別に、独立してお店を開きたい、というわけではないんですけど……
ご主人のように立派になりたい、と思います。
独り立ちしても、問題ないような……そんなダークエルフになりたいです。
……でも、それには、壁があることも分かってます。
私にはあまり、できることがないのです。
……弓、ですか? いえ……確かに、エルフは弓が上手い種族ですが……私は、生まれのせいで、あまり弓を持った経験がないので、幼い頃から狩猟でならしているエルフと比べると、どうしても劣ります。
こう聞くのも、変ですけど……ご主人、私は、どうすればいいと思いますか?
……頭がいい、ですか? 私が?
それは……さすがに、言い過ぎです。
…………。
確かに、お店にある魔導書の場所は、かなり覚えていますけど……完璧ではないですし、毎日働いているから、自然と覚えただけで……。
……ご主人は全然覚えていないのですか。でも、ご主人は裏での業務が中心ですから、仕方ないかと……。
……読み書きも? はい、ある程度はすぐに覚えられましたが……それは、ご主人の教え方がとてもよかっただけです。
…………。
……そう、なのでしょうか。私は……勉強が向いてるのでしょうか?
とすると……
ま、魔法、ですか。魔法の勉強を、もっと本格的に……?
……ご主人。この前のことは、とても反省していますから、忘れてもらえると嬉しいです……。
え? ……本気で仰っているのですか。
…………。
あ……そう、言われてみれば……。
確かに、精神操作の魔法が自分に跳ね返ってきたのは、上手く発動が成功していた、ということでもあります……。
初めてで成功したということは……私、才能がある、ということなのでしょうか……?
…………。
ご主人に、そう言ってもらえると……本当にそんな気がしてきました。
ありがとうございます、ご主人。では、魔法の勉強を、もう少し頑張ってみます。
使い物になるくらい、上達したいです。
…………。
……そっか。
私にも……できそうなことが、あったんだ……♪
ふふっ♪ なんだか、とっても嬉しいです、ご主人……♪
私、頑張ります。たくさんたくさん、頑張りますね。
いつか……胸を張って、ご主人の隣に立てるように!